* 短編小説 *

□ * ひとりのよる、ふたりのよる *
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隊長格二十五人中誰よりも真面目な少年は、誰かが止めない限りひたすら仕事に明け暮れる。

朝早くから筆を取り夜遅くに就寝し。
その間に稽古をつけたり見回りに出たり、最年少と言う事もあって護廷隊の雑用を押し付けられたり。
ともかく小さな身体でちょこまかちょこまか良く動く。

それが可愛くて構われるんやろなぁ、と思いつつ、市丸はのんびりと口を挟んだ。



「日番谷さんは真面目やねぇ」

「そうそう!もっと気楽にやった方がいいですよ〜」


他人事のようにソファで茶を啜るふたり組に、日番谷はこれ以上ないほど低い声で沙汰を下す。



「…仕事しろ、松本。そろそろ本気で減給するぞ。

…それからお前は邪魔だ、市丸。さっさと三番隊に帰りやがれ」


えー!と同時に声をあげる仲の良さに、日番谷は一層眉間の皺を深くした。

少年的には規範となるべき立場にあって、堂々とサボれるヤツが不思議でならない。
しかしその信じられない神経の持ち主は、自分の恋人と副官で。

気苦労が絶えない少年は、眉根を揉みながら次の書類に手を伸ばした。



「あ。そうや」


不意に、全く応えていない男がポン、と軽く手を叩く。


「ボク、今晩から現世やねん」

「…討伐か?」

「せや、虚退治やって。そんなん十一番隊長さんでも行かしたったらええのになァ」


絶対ジジィの差し金やで!と市丸は心底嫌そうに顔を顰める。

日番谷を孫のように可愛がり、その恋人である市丸を毛嫌いする総隊長なら大いに有り得る。
ぽり、とこめかみを掻いて、日番谷はそれとなく話を戻した。



「今晩って…急だな」

「うん。…寂しい?」

「な…!ば、バカかてめぇ!さっさと行け!二度と帰ってくんな!」


素早く飛んで来た文鎮を片手で受け止め、市丸はへらりと笑って立ち上がる。


「すぐ帰って来るから、ええ子で待っとってな〜」

「話を聞けぇっ」

「ほな行って来まーす」


どかっ。

市丸が消えた扉に二撃目を喰らわせて、日番谷は肩を奮わせ腰を下ろす。
あの野郎、とぶつぶつ悪態を吐きながら筆を握りなおすと、それまで黙っていた松本が、しれっと声を掛けてきた。



「隊長」

「なんだ!」

「扉、修理しといて下さいね」

「……」


べき、と食い込んでいた文鎮が、タイミングよくぽとりと落ちた。



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