* 短編小説 *
□ * キミのトクベツ *
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綺麗に片付けられた少年の部屋。十番隊隊主室。
それまで手を引かれつつも颯爽と歩いてきた日番谷は、自室の襖が閉められた途端に、目の前の恋人の背中に寄りかかった。
背後から抱き締める、というより前のめりに倒れ掛かる体勢は、動くと少年が畳に崩れてしまいそうで実に危ない。
「今お布団敷いたるから…。な?日番谷さん」
「……」
頭だけで振り向いて宥めるように声を掛ければ、ぼそ、と少年が何かを呟いた。
「ん?」
「……やだ、って言った」
「…でも、眠いやろ?」
はじまった、日番谷さんの、癖が。
「やだ。…一緒に、いる」
そう言って腰に手を回し、ぎゅっと縋りつく。小さな熱い手に手のひらを重ね、その発言はあかんやろ、と内心溜め息を付く。
「一緒に居るよ。せやけどこれやと動けへんよ」
背中に頭を擦り付ける少年を振り返りそう言うと、理解したのか、日番谷がぴたりと動きを止めた。
「おいで」
布団を敷くことを諦めて声を掛けると、寄りかかっていた身体が素直に離れる。
身体の位置を変え、畳の上に胡坐を掻くと、ぼんやりと立つ少年の腕を取り、自身の上に座らせた。
日番谷は、酒自体強くも弱くもない。
しかし騒ぎながらも呑みまくる松本は当然として、朽木と檜佐木は静かにゆっくりとしたペースながら、結構な酒豪。
阿散井はどちらかと言うと松本と似たような呑み方で、まぁそれなりには呑む方だろう。
それを考えると、勧められるままに呑んでしまうと潰されるのは当然で。
潰れた日番谷の状態は、日頃の彼を考えると…かなり危険。
何が危険て。
とろんとした目
(眉間の皺なし)
あどけない表情
(眉間の皺なし)
甘えた態度
(眉間の皺なし)
――そして。
……………積極的――。
横抱きにした日番谷の頭を肩にもたれかけさせると、柔らかい髪が首をくすぐる。
それに頬擦りをしていると、僅かに死覇装を引かれる感覚がした。
下を見ると、少年がこちらの袷を開いているところ。
「ちょ、日番谷…さん?」
そのまましっかり開くと、露になった胸板に数回手を滑らせ。
「いちまる…」
愛しげに、名を呼ぶ。そして綺麗に筋肉の付いた胸に頬を寄せて……。
こてん。
……すーすーすー…。
気持ち良く寝息を立てはじめた。
……えと、…人肌が……、恋しい、だけですか?
「………………拷問やわ」
この子の癖を知りつつ、それでもやっぱりすこーしだけ期待してしまうボクがあかんのやろか…。
胸にあたる暖かい寝息を感じつつ、市丸はハァ、と溜息をついて、少年を抱えなおした。
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