* 短編小説 *

□ * キミのトクベツ *
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先週の合同任務の打ち上げだとかで、今日は十番隊と六番隊で呑み会があるらしい。


恐らく酒好きの松本が「打ち上げしましょうよぅ」とか言って、真面目な日番谷が「勝手にやれ」と呆れ、阿散井辺りが「いいじゃないスか、たまには」とか賛成し、ついに朽木までもが「うむ」などと頷いたのだろう。


(余計なことを…)

冷たい笑顔に青筋立てて、市丸は屋根の上を疾走する。


目指すは十番隊舎、貴賓室。
瞬歩を使ってまでも急ぐ理由はただひとつ。

愛しい恋人が危険な状態になっていないかどうか、ただそれだけが気に掛かる。


(なんかあったら…射殺して証拠隠滅やな…)

見せしめは阿散井クン辺りでいいかと真面目に考えながら、足を速めた。




☆ ☆ ☆




隊舎付近で降り立ち、霊圧を探ると、ひぃ、ふぅ、みぃ…五人分の魄動。


(檜佐木クンやね…)

松本の酒呑み仲間の1人、九番隊副隊長の檜佐木の霊圧が紛れ込んでいる。
恐らく松本に引っ張り込まれたのだろう。

酒盛りと言えば固定メンバーである京楽がいないのは、伊勢を恐れてなのか何なのか。まぁどうでも良いが。



「邪魔するで」


言いながら戸を開ければ、中からぶわっと酒の臭いが溢れてきた。

(これは…大分出来上がっとる…やろな)





「あらぁ、ギン!来たわね」

「市丸たいちょー!ご苦労様ですっ」


余裕綽々な松本の横から、顔を真っ赤にした阿散井が立ち上がり敬礼をする。同じく起立した檜佐木が会釈をし、静かに猪口を持つ朽木が目礼をよこした。

それらを片手を上げて制し、肝心の相手を探すと……いた。



最も安全な位置を陣取ったのだろう。
檜佐木と朽木の間にちょこんと座り、片手に杯を、もう片手に地獄蝶を止まらせている。


それにほっと息をつき、真っ直ぐ日番谷の横に行くと、しゃがみこんだ。




「ごめんなぁ、日番谷さん。遅なってしもた」


蝶をじっと見つめていた日番谷が、ゆっくりと首を動かし、覗きこむ市丸と目を合わせた。


(ありゃ…)

据わった目に苦笑いを返し、蝶を止まらせる指に触れる。




『遅い』


今まさに飛び立たせようとしていたのか、流れ込んでくる短い言葉に苦いものが消えた笑みが浮かぶ。


市丸に伝え任務を終えた黒蝶は、ひらひらと飛び立ち日番谷に甘えるようにその周りを一周し、机の角に止まった。



空いた片手で日番谷の頭を一撫でし、猪口を奪うと中の液体を代わりに空ける。
口当たりの良い透明の液体に、喉が少し熱くなった。

思ったよりも呑み易く、しかし濃い。日番谷には少々キツイだろう。


(こんなもん呑ませて…)

自身で濃度を確認し、目を逸らす松本を咎めるように見て、小さな手を引き立ち上がる。




隊長としての職責がそうさせるのか。少年は目付きの割にしっかりと立ち上がると、客人に謝罪を、次に一升瓶を片手に猪口を運ぶ自身の副官に顔を向けた。



「俺は先にあがらせて貰う。すまないな、朽木、阿散井、檜佐木。……ここは片付けておけよ、松本」


隊長らしくそう命じると、市丸の後ろを付いて貴賓室を後にした。



………手を引かれながら。





(親子…)

(……引率?)



日番谷と呑むたびに見られるこの光景に、一同は声もなく目を合わせる。

もちろんそれぞれの思いが口に乗せられることは……、ない。





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