* 短編小説 *
□ * 質問させて貰っていいですか? W *
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それから暫く経って。
戸を叩く音に、日番谷は書類を捲る手を止め、顔を上げる。
どうぞと呼びかければ、静かにドアが開かれた。
「東仙…隊長。どうした?」
物静かで、滅多な事では隊舎から出る事のない東仙が、日番谷の元を訪れるというは珍しい。
椅子を勧め、留守にしている松本の変わりに、茶を用意させるべく席官を呼ぼうとすると、本人に止められた。
「いや、構わない」
そう言って、手にしていたものを差し出す。
「瀞霊廷通信…。そうか、もうそんな時期か」
月日が流れるのはなんと早いものなのか。日番谷は礼を言って、受け取った。
そう言えば、このインタビューの件で市丸の所に乗り込んだんだっけ、と苦笑しつつページを捲る。
しかもその数日後、突然その馬鹿が結婚しようと言い出した挙句、仕立て屋まで呼び付けて…。幸せそうな笑顔のまま氷漬けにしてやったのもつい昨日のようだ。
苦い記憶に日番谷の眉間に皺がより、小さな口がひくりと歪む。
大体あの馬鹿は、何に置いても唐突過ぎる。
そもそも男同士でそんなもの出来るはずもないし、精神的なものならば、仕立て屋など必要ない。
百歩譲って記念に新調したとしても、それは間違ってもドレスだの白無垢だのではないはずだ。
それがどうしてそうなっちまうんだ、と思いながら、眉間を揉む。
自分の…その、恋人、は。頭も良いし、腕も立つし、基本的には文句ないと思う。
申し出自体も…嬉しくない、とは言わない。
しかし時々、いや結構、というよりは年がら年中、こちらが思いもよらない言動や行動でもって振り回して下さるのだ。
正直、それが嬉しかったりもするのだが…。
物思いに耽りながら頁を繰っていた手が、ふと止まる。やたらカラーの多い派手なページが目に付いたからだ。
「げ」
思わず声を漏らし、一気に意識が目下の雑誌に奪われる。それも当然で、そこから30頁あまりが自分だらけ。
写真やらなんやらに辟易しつつ手早く捲っていくと、問題のインタビューに辿り着いた。
それを読みながら、こんなもん載せやがって、だの、松本のヤロゥだのと苦い声を上げていた日番谷だが――。
ダン!!!!!!
突然無言で瀞霊廷通信を机に叩きつけ、その反動で立ち上がる。
「なっ、なっ…
何だコレはぁぁ〜〜〜!!!」
隊舎中に、龍の如き日番谷の咆哮が轟き、瞬きをする程の時間で執務室は無人となった。
勿論東仙はとうの昔に消えていて。
残されたのは、執務机の上の、ひしゃげた瀞霊廷通信。
開かれたままのそのページには……。
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さて、いよいよ最後の質問だ!
一番問い合わせの多かった、日番谷隊長の気になるお相手について!訊いてみたぜ!
Q10:とある隊長との恋愛が噂されていますが?
隊長:俺は市丸を愛している
ありがとう、日番谷。幸せを祈っている。
(聞き手・執筆 檜佐木修兵)
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その後三日ほど、檜佐木は隊舎に現れなかった……、らしい。
→アトガキ
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