* 短編小説 *

□ * 質問させて貰っていいですか? V *
1ページ/4ページ


副隊長とは、思っていた以上に忙しい。



と言ってもうちの東仙隊長は部下使いが荒くないので、他隊の副隊長に比べれば…、十番隊の次ぐらいに楽なのではないかと思う。

業務を上げればキリがないが、書類の整理や隊員の管理、演習にも時々付き合わなければならないし、隊によっては隊長の面倒もみなければならない。



例えば、十三番隊。あそこは隊長が病気がちなので、面倒と言うより看病が必要。


十一番隊は副隊長すら仕事をしないし、八番隊は年中伊勢さんが隊長を探して瀞霊廷内を走り回っている。



それ以上に苦労が耐えないのが、三番隊。

書類の期日を破る事はないが、だからと言って仕事熱心とは言い難く。年中執務室を抜け出しては、あちこちで嫌がらせを楽しんでいるらしい。



しかし。最近では十番隊の日番谷隊長がお気に入りで、他隊の被る迷惑は減ったとかなんだとか。





というわけで、いくら十番隊の隣とは言え、市丸隊長がウチの隊に来ることは殆どない。


――殆どないと言うのに。










「……どうぞ…」

どっかりとソファに身を沈ませ、にこにこと背筋が凍る笑顔を浮かべる件の隊長の前に、買い置きの中では最上の茶を置く。
こんな時に限って東仙は留守。そんな中、妙に圧迫感のある執務室でふたりきり…。

しかし、通常の副隊長の仕事以外に、瀞霊廷通信の編集もしなければならない檜佐木は、市丸に付き合っている程暇ではない。


(というか…)

何の、用なのだろうか。




案外というか、思った通りと言うか。綺麗に茶を嗜む市丸をちらちらと伺いながら、檜佐木はいたたまれない気持ちになる。

三番隊と九番隊は隣接しているわけでもないし、合同任務の予定もない。
隊長自らお出ましと来れば、東仙に用があると考えるのが妥当なのだが…。


自分の知る限り、東仙と市丸が懇意であったという記憶はない。




「…あの」

「捗っとる?」

「……はい?」

意を決して話し掛けると、目を伏せたまま市丸が口を開いた。
しかし言っている意味が解らない。間抜けな問い返しをすれば、湯呑みを置いて市丸が顔を上げた。




「瀞霊廷通信」

にっこり。いやにたり、と口端を上げられれば、嫌でも言いたいことが伝わった。



「……お…、お蔭様で…」


(………もしか、して)

檜佐木はお盆を持つ手を震わせながら、冷や汗をつつー、と垂らした。






「ふぅん。………………………………………………………それは何よりやねぇ」





間を取らないで下さい!と言うことも出来ず、檜佐木は「はは」と答えになっていない笑いを浮かべた…。







☆ ☆ ☆







最近、いや、以前からなのだが、瀞霊廷通信の編集作業を行っているウチに、多く寄せられる投書がある。

曰く、『日番谷隊長の特集をして欲しい!』というものだ。



日番谷隊長と言えば、史上最年少最短記録で隊長にまで昇り詰めた、稀代の天才児。

瀞霊廷一の苦労人と言われる彼の眉間には、常に深い皺が刻まれ、腕は立つが口も悪い。しかしそこがまた可愛らしいと――本人には内緒だが、もっぱらの評判である。

かくいう檜佐木も、あの男前さとたまに見せる可愛らしさにどきりとしかけたことも数回…。



だがそんな命知らずな発言をするものは、瀞霊廷広しと言えども、ただ一人。

容姿に反して少年が隊長職に着いているから、というのもあるが、一番の理由は、この目の前の男の存在…。




『ボクの日番谷さん』と公言して憚らない、命知らずな、自称少年の恋人。




………そう、自称だった。

檜佐木がした取材に対し、少年が『そんなもんに答えられない』と言うまでは。






そもそも噂はあったのだ。付きまとう市丸を突っぱねる姿が基本の日番谷だが、酒を呑むと必ず市丸が迎えに来るし、その姿を実際檜佐木も何度か目撃している。

それだけに檜佐木自身も興味があったし、何よりも最近発行部数に伸び悩む我が瀞霊廷通信の為に、危険な橋を渡る決意をした。

何しろ噂の相手は、あの、市丸隊長。下手に手を出すとこちらの命が危ない。それだけにこの件は『瀞霊廷七大禁忌』のひとつとして、報道仲間の間では有名なもの。



だがしかし!虎穴に入らずんば虎子を得ず。一発大逆転を狙って日番谷にカマを掛けるという、命知らずな真似に出たのだった。

そして案の定根が素直な日番谷は見事に引っかかり…、決定的な一言はなかったが、確信を得るのに十分な発言を引き出せた。



火のないところに煙は立たない。

瀞霊廷一の人気者、日番谷隊長の熱愛報道を最初に流すのは、瀞霊廷テレビでも瀞霊廷新聞でもなく、この瀞霊廷通信だ!と、一大スクープに、発行部数を増大させた程。






だがしかし。決死の取材には命の危険が付き物で。かくいう今回の英雄も、現在命の危機に瀕していた。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ