* 短編小説 *
□ * 質問させて貰っていいですか? T*
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「はぁ!?」
九番隊執務室で、俺は出された茶を吹き出しそうになった。
いや、質問内容から言って、よく吹き出さなかったものだと思う。
良くやった、俺。
てかそんなんどうでも良い!
「……悪い、檜佐木。…もう一回言ってくれ」
俺の聞き間違えかもしれないよな?
そう期待を籠めて、俺は筆を片手にメモを取るゴシップ記者…否、檜佐木に、再度質問をしてもらうよう頼んだ。
「じゃぁ最初から言いますよ?今瀞霊廷通信で一番多いリクエストは、日番谷隊長、アナタのことなんすよ」
「……それは解った」
何だそれはと思いつつ、ひとまずスルーだ、スルー。
「日番谷隊長の私服姿を見たいとかぁ、日番谷隊長のスリーサイズを知りたいとか…。要は日番谷隊長の特集をして欲しいって」
「……んなのはどうでも良い」
俺が聞き返してぇのはそこじゃねぇ…ケド、男のスリーサイズなんか聞いてどうするんだ!?
「だからですね。日番谷隊長と市丸隊長の馴れ初めを聞かせて欲しいんすけど」
「な、なれ………!」
「ハイ」
聞き間違えてなかったとか、何で「だから」なんだとか突っ込む前に、ぼわっ、と顔が熱くなる。
何でこんなことになっているか、というと、昼飯食ってたら、檜佐木が「この後取材させて下さい」って言いに来たからだ。
てっきり隊員の心得だの、始解や卍解に至るまでの紆余曲折だのを聞かれると思っていたから、こうして九番隊執務室まで付いて来たのだが…。
「い、市丸との……なれ、そめ…」
応える気など毛頭ないが、檜佐木がヘンなこと聞くもんだから、つい考えちまった。
ぐるぐるする頭で浮かぶことと言ったら、正月に無理矢理呑まされてべろべろになったところをお持ち帰りされたとか…。
夜更けに市丸に書類を届けに行った時に押し倒されたとか…。
月見に誘われて行った先で襲われたとか…。
え、そんなのばかり……?
「ハイ」
無駄に爽やかに檜佐木が頷いた。けど…。
俺達って…………。
………………………
……カラダ、ばっかり…?
「そんなもん答えられるかぁぁ!」
ショックと羞恥に半泣きになりながら、日番谷は瞬歩でその場を逃げ出した。
脱兎の如く、ってこういう時に使うんだな。
1人残された檜佐木は一瞬呆然としたが、すぐに筆を片手ににやりと口角をあげた。
『そんなもんに答えられない』ってことは、付き合ってるのは事実なんすね♪
実は瀞霊廷通信に来るリクエストは、二人の馴れ初めなどではなくて。
『お二人が付き合っているのかつき止めて下さい!』というものなんですけどね♪
日番谷隊長はまともに言っても答えてくれないだろうし、市丸隊長に聞くのは……命懸けだし。
「ボクの冬を狙っとるんは誰や?」と笑顔で聞かれたら、守秘義務とかそっちのけで吐いてしまうかも…と、檜佐木は冷や汗をかく。
何はともあれ命は無事だし、頬の火照りを両手で確認するめちゃくちゃ可愛い日番谷隊長は見られたし、このスクープに東仙隊長も喜んでくださるだろう。
自分の敏腕副編集長ぶりにガッツポーズを作り、檜佐木はいそいそと原稿に筆を走らせるのだった。
それを影から見守り、部下の成長ぶりに満足気に頷く東仙サン。
そして、「お前ほんとは俺のこと好きじゃないんだろ!?」と半泣きでキレまくる日番谷と、何のことだかさっぱり解らずおたおたする市丸がいたとか…。
- オワリ -