* 短編小説 *
□ * 同僚以上恋人未満 *
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日番谷と言えども、常に仕事熱心なわけではない。
何もしたくない、というより事務仕事をしたくない日だってたまにはある。
熱もないし、体調だって悪くない。ただなんとなくやる気がでない、というやつだ。
だからそんな日は、気分転換に散歩をしたり、現世討伐に同行したり…。
ともかく机から離れて、気分が乗るまでやり過ごす。
今日はたまたまそんな日で、日番谷ははぁ、と溜め息をついて外を眺めた。
(要は身体がなまってるんだよな……)
最近隊長格が出張るような機会もない。
それどころか、何故こんなに?と思うほど事務処理に追われる毎日。
まともな休暇も取れぬ有様に、さすがの日番谷もゲンナリしていた。
休憩を取ろうかどうしようか、と思案しながら首を回すと、ごきごきん、という嫌な音が周囲に響く。
「隊長…。少し休まれたらいかがですか?」
かなり大きな音だったようで、書類整理をしていた松本が振り返る。
苦笑交じりのその声に、日番谷は同じ笑みを返しつつ筆を置いた。
☆ ☆ ☆
副官の好意に甘え執務室から出たものの、特に行くところはない。
こんな時、いつもならば何か仕組まれているのではないだろうか、と疑いたくなるぐらいの高確率で、狐顔の男が現れるのだが。
今日はどこの隊も忙しいらしく、市丸も姿を見せなかった。
優秀な副官に捕まって、泣く泣く机に噛り付く姿を拝みに行くのも一興だが、そんなことをするとつけあがらせるだけだし第一吉良の邪魔になる。
浮かんだ一案をあっさり捨てて、袖にいれた腕を組むとあてもなく歩きはじめた。
日頃せかせかと動く癖がついているようで、こんな風に隊舎内をゆっくり歩くというのは珍しい。
しかも、いつもならば執務室に篭って事務処理に追われている時間。
席官達も同様で、廊下を歩いているのは自分だけ――。
その静けさに、おかしなものだが何となくいけないことをしているような気分にさえなってきて。
それも手伝い、見慣れた隊舎が妙に新鮮に思えて、日番谷は無意識にきょろきょろと辺りを見回していた。