* 頂きもの 小説 *

□* 酒くらべ *
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「……は、今なんて言うたん?」

「あ?、一回勝負って言っ」

「ちゃうて!!その前や!!」

「とうとう耳が遠くなりやがったか」

「茶化さんで早よ答え!」



慌てているところをみると阿近が提示した内容は市丸にとって思いもよらないものらしかった。それはそうだろう、まさか勝負方法がこんなものだとは夢にも思わなかったに違いない。

くく、と無音で笑うともう一度答えてやる。普通ならばなんということはないことだが、日番谷にとってはもっとも不得手であろうと思われる勝負内容。


今からそれぞれの相手を呼びつけて、なおかつ酌をしろと言ってのけたのだ。この鬼は。



「ちょ、日番谷さんがそないなことしてくれるわけ…」

「なら、俺の勝ちだな」

「せやかて今の時間絶対寝てはるし、起こしたら機嫌最悪やもん」

「俺の方は絶対飛んでくるぜ。なんせ躾が行き届いてるからな」


猪口を手にしたままぶちぶちと唇を尖らせて珍しく眉間を歪ませる市丸。その顔を眺めるとほくそ笑むように片方の口端を持ち上げた。


「ボクかて、そないな内容やなかったら絶対勝っとるもん」


まだ言うか。
この負けず嫌いは。



「ほー、だったら今から日番谷隊長のところに行ってやっても、」

「あかん」

「ん?」

「あかん…ボク殺されてまう」

「…で?」



含んだ笑いを向けると情けなさも極まった顔をがくりと項垂れた市丸。



「ボクの負けでええです、うう…」



しょぼくれた男の答えを肴にあおった酒は美酒の香りがした。









***





「あら、阿近」

「ん?」

「今帰りなん?」

「ああ、てめえは…これからか、」


口を歪ませて情けない姿にククと笑う。頭から湯気を立ち上らせた副官に引っ張られていく市丸に軽く片手をあげて、ご愁傷様、と口中で呟いてやる。
白壁の角に二人の姿が消えて、軽く息をつくとまたゆったりと足を動かした。









独りは気が楽。

色恋は鬱陶しい。



過日、友に告げた言葉は自分にも当てはまっていた。そうと思わなくなったのは互いに心の拠り所を見つけてしまったせいか。
高く飛ぶ鳶の影を真っ青な空に見つけながら、今更ながらに変わったなと苦笑していると背中に馴染んだ霊圧が小走りに駆けてきた。


「阿近さんッ」

「おう、どうした。ンなとこで」

「阿、近さん、見かけたから…一緒に帰ろうと思っ……て」

「だからって急がなくてもいいだろ、息あがってんぞ」

「だ、……って、」



はあ、と肩で息をする檜佐木を横目で見るとそんなに苦しくはないのだろうか、阿近の視線を受けて嬉しそうに笑った。






――俺も、か。


そう腹中で呟くと薄く自嘲する。

二人でいる居心地の良さは変わらないものの、緩やかな変化を遂げた旧友と自分はやはり似たもの同士なのだろう。



「……阿近さん、?」

「ああ、今行く」



そう静かに思惑に幕を引くと、呼び声に振り向いて砂利道を鳴らした。









終わり
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