* 短編小説 *

□ * 質問させて貰っていいですか? V *
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「どうせやったらふたり一緒に取材してほしーわ。婚約発表みたいで良ぇと思わん?」


袖に隠した両手を口元に当てて、くすくすと笑いながら、とんでもない事を言い出した。

しかも有ろうことか、同意など求めてくる。




「そ、そうですねぇ〜」


冗談じゃねぇよ!という本心を必死に隠し、檜佐木は引きつりながら当たり障りなく笑う。


金輪際関わらない、と誓った側から頷けるわけがない。

ここは何としてもこのままお帰り頂かなければ!と僅かながらも抵抗を試みる。





だがしかし、元々勝ち目が薄いカードに加えて、気持ちの上で負けている。

そんな状態で勝負になるはずもなく。




「いややなァ。そんな顔せんといて。まるでボクが強制しとるみたいやないの〜」


と、笑顔を見せる市丸に、




「い、いえそんな。さすがは市丸隊長!名案ッス!」


結局は半泣きで頷くしかなかった。






そしてそんな檜佐木の気持ちをしっかりと理解していながら、いやしているからこそ、市丸は実にキレイに微笑んでみせる。


……追い詰める手は緩めずに。



「そぉ?せやったら、ボク等の秘めた愛の日々を語ったげてもええけど…、どないする?」

「是非お願いしますッ!!わー楽しみだなぁ!!」


完全に戦意を失い「楽しみ楽しみ」と自棄っぱちな青年に、市丸は「そんなに言うんやったら」と、壁に掛かった暦に向き直る。

そして暦と共に下げておいた朱色の携帯用筆ペンで、いくつかの日付の上に大きく丸を描いた。





「この日やったらふたりとも隊舎におるし。せやけどボク等多忙やさかい、先に日程言うて貰た方が間違いないで」

「ハイ…」


ほな次号はボク等の結婚特集やねぇ。白無垢ってすぐ用意出来るんやろか。でもウエディングドレスも似合うやろなぁ等々、婚約発表からどんどん飛躍していく市丸に引きつった笑みを返しつつ、檜佐木はようやく理解する。



(…この人)

寂しかったのか……。


市丸に聞かれたら、笑顔で神鎗を降らされるに違いない。





「せや、乱菊に聞いてみよ。ほなまたな」

そんな檜佐木の思いを知らない市丸は、脳内で決定した結婚記者会見の衣装を決めるべく、にこやかに手を振ってぱたぱたと忙しそうに去って行った。


そのご機嫌な様子を刺激しない様に、愛想笑いなぞ浮かべ振り返していた手を上げたまま、ずずず、と壁に背を滑らせへたり込む。

途端にきりきり泣きはじめたこの胃の痛みは、確実に気のせいではない。


ぐはぁ、と、おかしな呻きが、檜佐木の喉から搾り出された。




のけ者にした上に日番谷を泣かせた自分にしっかりと灸を据え、更にお披露目までさせるという周到さ。

きっと日番谷には「檜佐木クンがどうしてもって言うんやもん」とか言うつもりなのだろう。


自業自得とはいえ、あんまりだ。



松本に面白がられ、日番谷からは怒りを浴びる自身をうっかり想像してしまい、胃の痛みに嘔吐感がプラスされた。

手を当てたまま上体を倒し、とんでもないことになってしまったと、後悔しても時既に遅し。




『日番谷隊長に手を出すと、もれなく市丸隊長がついてくる』




禁忌を犯したものへ降りかかる禍を体験し、檜佐木は今度こそ誓う。


絶対今後何があっても誰に頼まれても天地がひっくり返ってももう二度と!彼等には関わるまいと……。








―――しかし。

日番谷にしたほんの小さな出来心は、あまりにも罪深いものだった…らしい。







-オマケに続く-



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