novel

□Full moon(桃海/パラレル)
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AM2:00

人々は寝静まり,夜の静寂が街を包み込む。

星は瞬き,怪しげに雲は揺らめく。

月は白く光り,この夜の世界を静かに見守る。

ただ・・・静かに。



Full moon


「・・・やっべーな,やべーよ」

皆が寝静まる中,この夜の世界に,不釣り合いな声と足音が木霊する。

「まったくよぉ,終電に乗れたと思ったら,寝過ごしちまって終点まで行っちまった」

ブツブツと独り言を零しながら,歩く男の姿を街灯が照らしだす。

「・・・こんな満月の夜だと,何か出そうだな」

ふいに零した自分の言葉に,思わず身震いしてしまう。



ガサッ



何処からか,奇妙な物音が起つ。

「ひっ!・・・」

反射的にその音で身構えてしまう。

「・・・大丈夫だよな・・・」

そう言って自分の言葉で自分を落ち着かせ,また元のよう,歩き出す。

暫くし,気分が落ち着いて来る。

「・・・やっぱ・・・居る訳ねぇよな」

そして,鼻歌でも歌う気分になってくる,と,



バッ



不意打ちの様に,いきなり視界に何かが飛び込んで来る。

何事かと,慌てて視界に飛び込んで来たものに焦点を合わせた。

人の様だ。

漆黒の様な黒髪。

思わず吸い込まれそうになる,大きな瞳。

闇夜でも分かる白い肌。

思わず目を奪われてしまう。



・・・綺麗・・・だ・・・。



つい見とれてしまう程にも美しい。

すると,此方の方をジッと静かに見つめて来る。

相手の瞳が金色に光る。

そして相手の開き掛けの口から,キラリと牙が覗く。

・・・っ!此奴・・・ドラキュラ!?

思わず空想の生物を思い浮かべてしまう。

そして本能的に,後退りしてしまう。

すると向こうは此方の方へと近づいて来る。

・・・・・ひぃっ!!血ぃ吸われる・・・っ!!!

そして覚悟を決めた瞬間,唇に何か温かな感触を感じる。



口付けされたのだ。



その合わせられた唇から,相手の微かな体温が伝わって来る。

いきなりの心地よさに,思わず顔に朱が走る。

暫くし,唇は離され,乱れた呼吸を整えようとしていると,気付く。

先程,自分の唇を奪った人物の姿がない。

辺りを見回すが,何処にも誰もいない。

「・・・?・・・今のは・・・・・夢だったのか・・・?」

今のは自分の空想が生み出した人物だったのだろうか。

しかし,唇に微かに残る感触は,消える事なく温もりを残したままだった。

「・・・・・」

先程の出来事は何だったのだろう。

「わかんねーな,わかんねーよ。」

ただ分かるのは,先程まで触れていた唇の感触,そして,



胸の鼓動の高鳴りだった。



「・・・やべーな,やべーよ・・・」

自分でも分からない。

なぜこうまで胸が高鳴るのか。

先程の人物の事を思うと胸が切り詰められるのか。



瞼の裏には,はっきりと金色の瞳の色が焼き付いている。



この感情は何なのか分からない。

しかし,夢なのか,現実なのかもわからない,あの人物に,



再び逢える事を願ってしまう。



「・・・今夜は・・・眠れないな」

そして家へと足を進める。

「また・・・逢えねぇかな」





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