novel
□Full moon(桃海/パラレル)
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昼時,騒がしく教室に話が飛び交う中,誰かの呼ぶ声が聞こえる。
「おーい,桃」
眠たい目を擦り,声のする方向を見る。
「・・・あぁ,マサやんか・・・」
とても気怠そうな声。
「桃,食堂行こうぜ。荒井と林が先行って席とってるぜ」
「んー・・・,わぁった」
そう言って,重たい体を起こして食堂へと向かう。
* * * * *
「・・・なぁ,おまえ等,『ドラキュラ』って信じるか?」
「ん?何だよ桃,いきなり」
林がカツサンドに食らい付きながら尋ねて来る。
「いや・・・,昨日ホラー映画見てたからさぁ」
ぽりぽりと頭を掻き,必死に誤魔化す。
「ふーん。あっ,そんで昨日徹夜して映画見てたから今日ずっと寝惚けてんだろ」
池田が納得した様に言う。
「そっ,そうなんだよ。そんで眠くてさぁー」
「へぇ,・・・でもよぉ,俺は信じてねぇな。『ドラキュラ』なんてよ」
荒井がもごもごと口に食べ物を入れながら喋る。
「そうか?俺はどちらかと言うと信じてるかな」
「うん,俺も」
林と池田が頷くと,荒井はかったるそうに言う。
「何言ってんだ。だって血ぃ吸うんだぜ?気持ち悪ぃ」
「まぁな。確かに気持ち悪いよな。それに何百年も生きるって言うし,すっげーじじいなんじゃねぇ?」
「そうかも。それになんか映画に出てくるのとかって,大抵すっげーブサイクだよな」
三人がそんな風に笑っているのは許せなかった。
・・・ちげーよ・・・彼奴は俺等と同じぐらいの歳で,それに・・・
凄く,綺麗だった・・・。
スッと目を閉じ,まだ瞼の裏に焼き付いている,あの,金色の瞳の色を思い出した。
思いだすだけで,胸の鼓動が高鳴る。
・・・逢いたい・・・。
そう心の中で呟いた。
また逢える事を信じて。
* * * * *
ぽつぽつと大学から家までの道を歩いていく。
「やっべーな,やべーよ。また寝過ごしちまった」
昨夜と同じ様に,暗い静かな世界に,またも不釣り合いな声が木霊する。
しかし,昨夜とは違い,星や月は雲に覆い隠されてしまっていた。
「・・・今日は昨日みてぇに,月,出ねぇんだな・・・」
そう呟くと,思い出してしまう。
昨夜の人物の事を。
「・・・何俺,夢見てんだよ・・・」
あれは夢だったんだ。
現実じゃない。
現実じゃ・・・ないのに・・・。
クソッ!
何でこんなに胸が痛ぇんだ・・・!?
何で目ぇ閉じると彼奴の姿が出て来るんだよ!?
一度しか会った事ねぇのに・・・。
夢かもしんねぇのに・・・。
「何でなんだよっ!!!」