刀剣乱舞

□二話 初めまして、違和感
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大広間にはすでに大勢の刀剣男士が集まっていた。

この本丸に来てからチラとも人影を見なかったところを見ると、すでに彼らは大広間への招集がかかっていたんだろう。


「ねぇ、長谷部さん!まだここに居なきゃいけないの?」

この声は、乱藤四郎だね。

「主はいつになったら現れるんだい?」

これは、にっかり青江。

それから口々に不満や疑問を吐き出す刀剣男士たち。

「えぇい、うるさい!ここで全員待機と主命が下ったのだ!解散の命が下るまで誰一人一歩も外にはださん!」

へし切長谷部の怒鳴り声が、目の前の部屋から聞こえる。



「ははっ。早いとこ中に入らないと大変な事になりそうだね。貴女は少しここで待ってて」

審神者くんは苦笑しながら、襖を開ける。

彼が完全に中へ入ると襖を閉める。




待ちわびた審神者が現れると刀剣男士たちは次々に彼に言葉をかけていった。


あぁ、やっぱりここの本丸も一緒だ。
みんな審神者が大好きで大好きでたまらないんだ。



---主さん!!
   主殿
    大将!
   …雫さん


今は亡き彼らの声が頭の中でリフレインされる。

『…っ』

ダメだ。
ダメだダメだダメだ!

感傷に浸ってる場合ではない。

私は今日から彼らの世話係として存在するんだ。
女中だ、給仕だ。
仕事に専念しなくては!

零れそうになる涙を我慢して、深呼吸をする。

『すぅ、…はぁ』


うん、落ち着いた。
大丈夫。
いける。


「入ってきて!」

平常心に戻せたところで審神者くんの催促の声がした。















まぁ、当然っちゃ当然なんだけど…。

部屋に入って審神者くんの隣に立った私に、みんなの視線が注がれた。

好奇心に満ちた顔、警戒心むき出しの顔、不思議に思っている顔。

実に三者三様である。


広間に集まった者たちの顔ぶれを見ると、妙な偏りがあるのに気付く。

五虎退・厚・秋田・前田・乱・薬研の粟田口と、今剣、愛染国俊、小夜左文字。
にっかり青江、鯰尾、堀川国広の脇差3振り。
打刀は山姥切国広、へしきり長谷部、加州清光、和泉守兼定の4振り。
太刀は燭台切光忠の1ふりだけで、大太刀、薙刀、槍に関しては1振りもいない。

「彼女は本日付けでこの本丸に配属された女中さんだ。みんなの食事や洗濯などの身の回りの世話をしてくれる」

刀剣男士たちの方を向いていた審神者くんは、私の方に向き直ると

「じゃあ、きみからも一言お願い」


マジか。
正直、紹介だけで終わると思っていたので、いきなりの振りで一瞬頭の中が真っ白になる。

いや、こんな事でいちいち気にしてたらこの先やっていけない。

私は意を決して口を開く。
なるべくきつく、冷たく、無機質で…。


「この度こちらへ配属されたものです。頑張ります」


そういうと頭を深く下げた。



決して【よろしくお願い致します】とは言わない。
仲良くしちゃダメだから…。


私の挨拶を聞いた刀剣男士たちはザワザワと騒ぎ出す。



「はいはーい!しつもーん!」


乱藤四郎の明るい声が響く。


「なに?みだれ、どうした?」

審神者くんが答える。


「女中さんのお名前は?なんて呼べばいい?」


乱の言葉に周りに居たものも、うんうんと頷く。


この質問は必ず来るだろうと思っていたから、すんなりと口にする。


『私の事は【女中】とも、【女】とも、好きに呼んで下さって構いません。』



私の言葉で空気が凍ったのがわかる。

これでいい、これでいいんだ。
みんな引いてくれ。
私に近づかないで。

「え、えーっと…女中さん、の名前は…」

空気に負けじと今度は厚藤四郎が聞いてきた。


『ございません』


これまたきっぱりと突き放す。

これには大多数の刀剣男士たちから敵意の視線が注がれる。


そんな様子を見ていた審神者くんが苦笑しながら話し出す。


「あはは。彼女は不器用な性格なんだ。仕事は確かだから、そこは信用してあげてね?」


はいかいさーん




審神者くんの一言で部屋を出ていく刀剣男子たち。


私の前を過ぎるものは、少し怯えた目でこちらを見たり、まったく見向きもしなかったりと、冷たい反応だった。


これで、いい。

そう思う反面、かなりシンドイと思うのも事実。

信頼関係が全くないんだ。

仕事ができるなら、彼らの生活に支障がないのなら、きっと彼らは私を疎ましくは思わないだろう。
空気になるんだ。
私は、空気だ…。


折れそうになる心を奮い立てるように私はそう考えるようにした。
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