刀剣乱舞

□二話 初めまして、違和感
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「審神者様!例の女性をお連れしました!」

こんのすけの声が廊下に響き渡る。


今私がいる場所は、これからお世話になる本丸の主の部屋の前だ。

本丸に来た時点で思った事なんだけど、本丸の作りってどこも同じなのかな?
目の前の襖は、色合いが少々違えども、大きさも模様も取っ手の施しだって見覚えのあるものだった。


しかし違う物もある。
ふと窓の外の景色を見ると、大きな木が鎮座していた。

私の本丸にはあんなに大きな木は無かった。
代わりに申し訳程度の林が存在していたのだ。


「……どうぞ」


しばらくして本丸の主の声で部屋へと招かれる。

いよいよ審神者とのご対面。
ハッキリ言って緊張しかない。


『「失礼します」』



こんのすけと声をそろえて、部屋の中へ足を一歩踏み出した。















『お初にお目にかかります、審神者さま。本日よりこちらの本丸でお世話になります、邑雨 雫と申します。』


審神者の前で正座で座り、手をついて深々と頭を下げた。


その態度を見た対面している彼は、慌てた様子でこう言った。



「ちょっ、そういうのナシ!待って待って!顔上げて!敬語も使う必要ないよ。僕ら同年代だろ?しかも、僕が不甲斐ない為に君が呼ばれたわけなんだし!」


彼と私が同年代とは、こんのすけから事前に聞いていた。
そして私が彼のサポーター役であることも…。


しかし、


『いえ、そういう訳にはいきません。貴方様はこの本丸で一番の存在。いわば城主である貴方様に不敬を働くわけにはいきません。それと、お言葉ですが審神者様は決して不甲斐なくはありません。戦の采配は目を見張るものがあると聞き及んでいます』

顔を少し上げるが、あくまで中腰の姿勢でなおかつ視線は斜め前に。
決して目を合わせずにそう告げる。

「うーん」

彼はまだ納得してない様子だ。


『私は【女中】としてこちらへ参りました。貴方様は私の主です。そんな方にどうしてラフに接する事ができるでしょうか?』



そう言うと、彼はため息をついた。


「わかった。君の気持は理解した。だから主命令」

『何なりと』


「顔を上げてくれない?」

『承知致しました』


彼の要望通りに顔を上げる。

このには満面の笑みを浮かべた男性が座っている。
言わずもがな、ここの主なのだが。

なんでこんなににこやかなんだろう?


「うん。やっぱりこうがいい!」

『?』

彼の言葉に首を傾げた。


「会話をするときは相手の目を見て話すのが一番いいよね!」


あぁ、なるほど。
この人は人当たりがいい人なんだな。

彼の目をまっすぐ見てそう思った。

きっと悪い人ではなさそうだ。



「あ、そういえば…」

少し言いにくそうにしながら彼が口を開く。

「雫さんの事を少し聞いていいかな?えっと、君が持っていた本丸での事」



心臓を抉られるような衝撃を受けた。
いつかは話す日が来るだろうと覚悟をしてやってきたのだけれど、まさか初っ端から話す羽目になるとは…。


私の顔が相当険しかったのだろう、彼は慌てふためいて


「ご、ごめん!今のナシ!言わなくていいから!!!」



今まで隣で黙って聞いていた、こんのすけが助け舟を出すように、

「審神者様、その件については簡素ではありますが報告書がございます。後ほどお渡ししますので、お目通しを願います」



事前に渡しとけよ、って内心思ったけど

何も言わないでおこう…。



「あっ!本丸の造りはわかる?それから、僕の所持している刀剣士子達にも会ってほしいんだけど」


辺りに漂う嫌な空気を払拭するためか、審神者くんがやや明るめの声で言った。


「本丸の造りはどこも同じなのですよ。ここも、雫さまが居らした本丸も」



フォローにこんのすけが口を挟むが、


『こんのすけ、私に【様】を付けちゃいけないって言ったよね?ただの女中に敬語を使うのもおかしい』


むむっ!っとこんのすけは唸る。

「そうでした、以後気を付けます!でも、敬語は標準装備なので、そこだけは直せません」

たしかに、こんのすけは刀剣男士にでも敬語で話していた。
それが素であるならば仕方がない。


『私の事は【女中】って呼んで。審神者様もそう呼んでいただければ助かります』


私はあくまで脇役だ。
名など必要ない。

「では【女中殿】とお呼びいたします」

ふさふさの尻尾を振りながら、こんのすけが答える。

それに対して審神者くんは、


「え?雫さんって呼んじゃダメなの!?」


かなり驚いた様子で返事が返ってきた。


『はい。私たちだけの時は名前で呼んでもらって構いません。しかし、刀剣男士たちの前では名を呼ばれると少々困ります』


「なんだ、びっくりした。名前呼ばれるの嫌いだと思っちゃった。わかった、うん。じゃあ彼らの前では【女中さん】って呼ぶね」


『ありがとうございます』

審神者くんに名前で呼ばれるのは問題ない。
だが、刀剣男士たちにそう呼ばれると勘違いしそうで怖いんだ。

ここは私の本丸ではなく、審神者くんの本丸だ。

そこの一線は間違えても踏み越えてはいけない。

だから刀剣男士たちとも隔たりを作るんだ。
線を引く。
壁をつくる。

それが一番ベストなんだから。



私の決意を知らない一人と一匹は、刀剣男士と対面させるため、私を大広間へと連れ出した。
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