刀剣乱舞

□一話 終わりと始まり
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熱い、熱い
あつい、あつい、あつい

パチパチと木の燃える音が耳に届く。
屋敷が燃えてそこらから煙が立ち上る。

鼻を刺す焦げ臭いにおい。


本丸は敵に囲まれ、火を放たれたのがついさっき。


キンッ カチン キィィン

四方から刀の交わる音がする。


どうして…どうしてこうなった?

敵と交戦する刀剣男士達を見ながら、回らない頭で考える。



「ぐっ」
どさっ


「…うぅっ」
どさっ


一人、また一人と倒れていく刀剣男士たち。

その度に私たちは少しずつ、少しずつ、後ずさる。



『あぁ…あぁ……』

正常に判断できなくなった私の口からは、意味のない音が零れるだけだ。




「大丈夫ですか?」

そう言葉をかけたのは、私の近侍である太郎太刀。
敵襲があってからずっと、傍に居てくれた刀だ。

彼の声に反応して、長身の彼を見上げる。


「…言わずもがな、でしたね。こんな状況で大丈夫な人間などいません」


私の情けない顔を見た太郎太刀は、珍しく眉毛をハの字にさせている。

「貴女にそんな顔をさせたく無かったのですが…」


彼はそっと腕を伸ばし、私の頬に手を添えた。


そして優しい口づけを落とす。


チュッ



軽くリップ音を立てて、彼の唇が離れていく。



体が離れたと思ったら、急に私を背を庇う体勢になった。



「逃げなさい…」


『え?』

彼から放たれた言葉に反応できず、思わず聞き返してしまった。


「逃げてください。さぁ、早く!」

『逃げるって…。太郎太刀は?他の刀剣男士たちは!?もちろん一緒に逃げるんだよね?』


まるで私一人で逃げろと言わんばかりの言い方だった。
勿論私はそれを善しとしない。

まだ破壊されていない刀剣男士だっている。
逃げるならみんな一緒に…。



数歩進んで、こちらを振り返る太郎太刀。

手は自身の本体である大太刀にかけられている。

「いえ、私は逃げません。それに、今残っている刀剣男士たちも長くは持ちません」

刀を抜きながら答える太郎太刀の目はまっすぐと私を射抜く。


彼の目は覚悟を決めた者の目をしている。


「私たち刀剣男士は審神者を守る役目があります。そして私は、貴女を守りたい。審神者である貴女ではなく、恋人である邑雨雫。あなた自身を守りたいと思うのです」

『でもっ!』

彼の言い分に言い返そうと声を上げる。

しかし…


「現世に興味がないと言っていた私がここまで言ってるのですよ?」


太郎太刀の言葉によって遮られる。


「お願いです。雫は逃げてください」




キンッ

「ぐあっ!」

どさっ


また一人、私の大事な仲間が破壊される。



刻一刻とリミットが迫っている。

「審神者様!」

場にそぐわぬ甲高い声が響く。

『こんのすけ?』


後ろを振り返ると、こんのすけがこちらに走ってきた。

どうしてここに…。


「審神者様!さぁ、参りますぞ。」

『参るって…、どこに?』

「逃げるのです!」


ピンと背筋を伸ばし、私にハッキリとそう言った。

『でも…』

「時間がありません!さぁ、早く!!」


こんのすけに裾を引っ張られ、誘導される。



困惑したまま、太郎太刀を振り返る。



「お行きなさい。愛してますよ、雫」


彼はそう言い、反対を向いてしまった。


『いや!いや!!一緒に逃げよう!ねぇ、お願い!』

泣き叫ぶ私を他所に彼は敵のもとへ歩みだす。


『太郎太刀、戻ってきて!行かないで!!いっちゃやだ!太郎太刀!!!』
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