●花薊物語●

□花薊物語 番外編
2ページ/8ページ

塾の近くの時計台の前で、傘もささずに突っ立っていた僕を、現実の世界に引き戻したのは、
確か、この塾の塾生の



―――パンパさんだった。



パンパさんは、右手にコンビニの袋を提げ、左手に澄んだ水色の傘を持っていた。


「・・・君こそ、こんなところでどうしたの?」


いくら塾に近いといっても、塾生が来るような方向にある公園じゃないし、来るとしても、何のメリットもない公園だった。



「いえ、そんな大した用ではありませんが・・・。」




本当にこの塾の生徒だろうかと思うような礼儀正しい生徒。

普段、「先生」なんてつけて呼んでもらえないあげたまごとしては、なんだかくすぐったかった。





パンパは、僕の隣まで歩いてきて、時計台を見上げた。



「此処は思い出の場所なんです。」




此処に通うのが日課なんです。




パンパさんはそう言って傘を半分僕の方に傾けてくれた。



「ずぶ濡れになったら風邪をひきますよ?」


「うん。そうだね。塾に戻ろうか。」




なんて優しい生徒だろうか。

普段相手してる奴等とは大違いだ。




僕は、パンパさんと、傍から見れば相合傘になるような格好で、塾に戻った。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ