●花薊物語●
□花薊物語 番外編
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塾の近くの時計台の前で、傘もささずに突っ立っていた僕を、現実の世界に引き戻したのは、
確か、この塾の塾生の
―――パンパさんだった。
パンパさんは、右手にコンビニの袋を提げ、左手に澄んだ水色の傘を持っていた。
「・・・君こそ、こんなところでどうしたの?」
いくら塾に近いといっても、塾生が来るような方向にある公園じゃないし、来るとしても、何のメリットもない公園だった。
「いえ、そんな大した用ではありませんが・・・。」
本当にこの塾の生徒だろうかと思うような礼儀正しい生徒。
普段、「先生」なんてつけて呼んでもらえないあげたまごとしては、なんだかくすぐったかった。
パンパは、僕の隣まで歩いてきて、時計台を見上げた。
「此処は思い出の場所なんです。」
此処に通うのが日課なんです。
パンパさんはそう言って傘を半分僕の方に傾けてくれた。
「ずぶ濡れになったら風邪をひきますよ?」
「うん。そうだね。塾に戻ろうか。」
なんて優しい生徒だろうか。
普段相手してる奴等とは大違いだ。
僕は、パンパさんと、傍から見れば相合傘になるような格好で、塾に戻った。
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