ygo!

□消せない痛み、消えない罪悪
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震えるような、小さな囁きが十代を緩やかに揺り起こす。
眠りの世界から引き戻されるように、十代は薄く瞳を開いた。

「ん…」

ぱち、とひとつ瞬きをして、ゆっくりと身体を起こす。
ふぁ、と零れた欠伸は、本来なら未だ眠りの世界に
旅立ったままであるはずの証拠で。
眠そうに瞬きをまた一つ零して、十代は周囲を見回す。
已然として、囁くような声は断続的に続いている。

『…ゅ……ぃ…』

訝しげに、十代の顔が歪められる。
声、だ。
だが、仲間のものでは、ない。

耳を澄ませて、十代はその声を拾おうと努力する。
しかし、暗く静かな深夜に響く、その囁き声を聞き取るのは、
さほど難しいことではなかった。

『ゅぅ…ぃ……ぅせい…』

(………ゆう、せい?……遊星?)

囁きは、そう聞き取ることが出来た。
夜―闇に属するもの以外は例外なく寝静まる、そんな時間帯。
精霊たちも、普通は主の安息と共に、休息を取るはずだ。
なのにも関わらず、囁きは止まらない。


…おかしい。


さわさわとざわざわと、精霊たちが彼の名前を、呼んでいる。
普通では、ない。
導かれるように、十代は割り当てられた部屋を出た。




数歩離れた先の扉から漏れ聞こえるのは、先程からの精霊たちの声だ。

一体どうして、こんなにもざわついているのだろう?

だが、中からは物音がしたような気配は無い。
遊星は、起きているのか?それとも寝ているのか…?
ドアノブに手を伸ばしかけ、やめて、十代は逡巡する。

…しかし、だ。
自分でも、これは普通じゃないと思って部屋を出てきて、
こうして遊星の部屋の前で往生しているのだ。




だが十代はひとつの可能性に行き着く。
一昨日、昨日今日と、
遊星は例の発作で倒れることも無く過ごしていた。
勿論治ったと思っていたわけではない。
少しばかり、それで気が緩んでいた。



…まさか。



十代は深呼吸一つ、ドアノブに手をかける。





 
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