ygo!

□お眠りなさい安らかに!
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「遊星ー?起きてるか?飯…」


かちゃ、とノブを捻って、十代は暗い部屋に入った。
途端に、首の横を掠めて目覚まし時計が飛んで来た。
顔に青筋を立てながらも、十代は投げられた方向を見やる。
そちらには、はぁはぁと肩で荒く息をつきながら
今時計を放ったままの状態で十代を睨みつける遊星がいた。

「…ゆ、遊星…?ご、ごめん…オレ、あの…そのっ…、」

内心冷や汗を流しながらも、十代は慌てて遊星に声を掛ける。
すると、遊星は先程の殺気とも言える程の、その眼光を緩ませた。

「…十、代さん…?」

呆けたような顔で、遊星は十代の方を"見た"。
そうして、十代の顔が若干引き攣っているのと、
壁が少しばかり傷ついていること、そしてその付近に
目覚まし時計が落ちているのを見て、状況に気が付いたらしい。

「! じゅ、十代さん!
す、すみません!怪我は…!?」

焦って転がり落ちるほどの勢いで、遊星はベッドから這い出して、
十代の元へ駆け寄った。

「いや、だ、大丈夫…ちょっとばっか吃驚しただけで…」

あはは、と十代が誤魔化すように笑うと、遊星は眉を顰めて
十代を見る。

「…すみません、本当に…」

頭を下げて謝る遊星に慌てたのは十代で、わたわたと落ち着きなく
遊星の顔を上げようとする。

「いやいやいや!いいんだ、オレの事は別に!
そ、それより遊星は?大丈夫か…?」

負荷がかからないよう、先程から怪我をした部分を庇っていることに、
さすがに十代も気がついている。

「………大丈夫、ですから…心配しないで下さい…」

遊星は目を伏せる。それは要するに暗黙の返答でもある。
十代は、持っていたトレイを床に置く。そうして、遊星と向き合った。

「…さっきは、ごめん…謝って済むことじゃないかもしれないけど…」

そう言いながら遊星の脇に腕を差し込み、
肩を支えて暗がりの中にあるベッドまで連れて行く。
遊星は遊星で何も言わずに、目を伏せたままゆっくりと歩いた。
ベッドにつくと、遊星はもそもそとベッドに乗りあがる。
それから、十代は上半身に何も身に着けていなかった遊星
(包帯だらけの痛々しい姿だった)に、
肩から彼のジャケットを掛けてやる。
きゅ、と自分のジャケットの裾を掴みながら、
遊星は身体を小刻みに震わせていた。


パチリ、と唐突に部屋の電気が点く。
遊星は光の強さに目を細めながら、息を吐いた。
そして、何時の間にかトレイを取りに戻って電気を点けて来た十代が、
投げられた目覚まし時計片手にベッドサイドの椅子を引っ張り、
横に腰掛ける。

「…落ち着いた?食えるか?」

十代が出来るだけ優しく声を掛けると、そっと遊星が頷く。
それでも目は伏せたまま、十代を顔を合わせようとはしない。
しょうがないよな、と思ったところで、あ、と十代は気がついた。

「これ、…冷めちゃってるな…よし、今あっため直してくるから…」

そう言って十代が腰を上げる。


―…行って、しまう。
今此処で、この部屋に一人きりになる。


その事実は途方もなく、遊星を不安にさせた。
十代がにこ、と笑ってジャケットの裾を翻しながら
ベッドを離れようとした。
と、十代はくい、と控えめに引かれたその感覚に
訝しみながらも振り返る。
そこには遊星しかいないのだから、
彼が引っ張ったことは分かりきっているが、
その行動に理解が及ばなかった。

「温めなおさなくて、いいです」



―それよりも、傍にいて欲しい…―



…無意識のうちに唇から零れた、震えた囁きが、
果たして十代の耳に入ったのかは分かりえない。
だが、十代はトレイを持ってすとん、と再度椅子に座りなおす。
そうして、何も言わずに笑った。





 
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