【書庫】

□できるなら、またこの桜の下で…
2ページ/8ページ

永倉さんから受け継いで運んでいる竹は、見た目ほど重くないものの、その太さ、大きさに目の前を塞がれてしまう。

私は歩き慣れた中庭までの道を、竹の隙間から見える狭い視野と勘を便りに歩いていた。

「……………!!!」

突然、僅かな視界さえも目の前の何かに塞がれる。

(ぶつかっちゃう…!)

そう思って身を固くして急に足を止めると、

「なに自分よりでかい物運んでるんだよ。」

そう言われて、持っていた竹がすっと腕から抜かれる。

「原田さん…!」

呆れたような笑みを浮かべて、原田さんはさっきまで私の手にあった竹を持っている。

「運んでくれてありがとな。
でも危ねぇから今度からは声かけろよ。」

そう言うと、別段視界に困ることもなく、竹はちゃんと彼の胸のうちに収まって運ばれていく。

「あ、千鶴!
ちょっとこれ見てくれよ!!」

中庭の真ん中にござをひいて沖田さんとお正月の玄関飾りを作っていた平助君が叫ぶ。

平助くんが指差す先には作りかけらしい輪飾りがあった。

「総司がしばったんだけどさァ、もう藁がぐちゃぐちゃで。」

本来揃えられてあるべき藁の束が、ざんばらの状態になっているのを見て、平助くんはため息
をつく。

そんな平助くんをちらりと見て沖田さんも口を開く。

「最初に平助がやったのはも―…っと酷かったよね。」

沖田さんは【もっと】という言葉をすごく溜めて言う。

…そんなに酷かったのかな?

「あ、あれは…!!」

平助くんが目を見開いて焦ったように抗議しようとする。

「自分の髪は束ねられるのに、なんでこれはできないんだろうね。」

今度は沖田さんがふぅ、と溜め息をつく。

「なっ、それを言うなら総司だって一緒じゃん!」

二人とも毎日自分で髪を結っている。平助くんは私より長い髪を、沖田さんはちょっと凝った髪型に。

「僕は束ねてるんじゃなくて、結わいてるの。」

そんな二人を見かねて、口を出してしまう。

「…私がやりましょうか?」

すると平助くんがくるっとこっちを向いて目を輝かせる。

「本当か!?
絶対こういうのは女の子が得意だって!」

沖田さんもちょっと考えるような仕草をしながら笑う。

「それもそうだね。
千鶴ちゃんが器用かどうかは知らないけど、少なくとも僕たちよりはうまいだろうし。」

あんまり期待されても緊張するのだけど…

でも江戸にいた頃に父様に教わって何度か作ったこともあるし



私は無造作に束ねられていた藁を一旦ほどいて、もう一度まとめ直してから紐で縛り始めた。



「……よし!」

これなら新選組屯所の玄関に飾っても、大丈夫だよね。

ある程度満足いくようにできた輪飾りを持ち上げる。

「おぉ―!
さっすが千鶴!!」

平助くんは嬉しそうに、

「ふぅん、やっぱり女の子は違うね。」

沖田さんは感心したように完成した輪飾りを眺める。


「それじゃ、飾るか。」

今まで門松のために竹を組み立てていた原田さんが、でき上がった輪飾りを見て明るく笑う。

「あ、佐之さん俺がやるって。」

門松を作っていた原田さんの作業を中断させまいと、平助くんが立ち上がる。

でも原田さんはそんな平助くんの頭をぽんぽんとたたいて笑う。

「俺に任せとけって。こういうのは高いところに飾付けた方がいいんだよ。」

「あ、酷っでぇ!
俺じゃ届かねぇって言うのかよ!!」

平助くんが腕をぐーんと伸ばしたけど、原田さんがひょいと持ち上げた輪飾りに届かない。

沖田さんは可笑しそうに笑う。

「平助、事実だからしょうがないよ。
ね、千鶴ちゃん。」

「なんだよ総司まで!」
平助くんは原田さんに向かって騒いでいたけど、原田さんは取りつける作業に忙しそうだし、沖田さんはそんな二人を見て笑っていた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ