【書庫】
□大切な温もり
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沖田さんは本当に私を大事にしてくれている。
それは出逢った頃には考えられないくらいに。
暖かい春の日差しの中、庭を眺める場所で、私は彼に寄り添って座っていた。
彼は穏やかな表情で、私の髪に指を通して遊んでいる。
「…ふふっ。」
思わず私も笑みがこぼれてしまう。
「なぁに?
何かおかしいの?」
沖田さんは髪を弄りながら私の顔を除き込む。
「いえ、私は沖田さんに大事にしてもらって幸せだなぁ、と想って。」
心の底からの想いを笑顔と共に言葉で伝える。
「こんなこと言ったら失礼ですけど、初めの頃は沖田さんって怖い人だと思ってましたし。
今の優しさがすごく嬉しいんです。」
そう言うと彼は笑う。
「そりゃね。
僕だってこんなに君を大事にするようになるとは思ってなかったよ。何しろ最初は本当に『殺してもいい』って思ってたから。」
それが今はこんなにも優しく私をさわってくれる。
彼の指が髪を滑る感覚が心地好い。
「沖田さんなら私の命も軽く奪えてしまうんだと思って怖かったんです。」
昔の彼は命を軽いものとして指先で扱えてしまうように見えた。
彼は軽く頷きながら笑っていた。
「そうだね。
僕は誰かの命も、僕の命もすぐに壊れるものだし消えても構わないと思ってた。
でも君に出逢って、病にかかって、少しずつ変わったんだ。
今は…………」
ふいに彼は指先で髪を遊んでいた手を伸ばして私を抱きしめる。
「…少し消えてしまうことが怖いくらい、僕にとって君の存在も、僕の命も重いものになってしまったみたいだ。
君が………好きだから。」
囁かれたその言葉に、私はくすぐったいような甘く熱っぽい気持ちになる。
そんな気持ちに狂わされてしまいそうで、私は沖田さんの着物をぎゅっとつかむ。
「だから僕は君と、君と一緒にいられる時間を大事にする。
もちろん、そのためには生きてなきゃいけないから、僕自身の命もね。」
抱きしめた手で、また私の髪をすいて遊ぶ。
「僕にはこうして君を大事にできる時間が幸せなんだ。」
私は溢れてくる気持ちと笑みを止められなくて、彼の胸のなかで微笑んだ。
「私が幸せで、沖田さんも幸せで。
私は本当に幸せです。」
あなたも幸せなら私も幸せ。
沖田さんはくすくすと笑う。
「二人そろって幸せなら、僕も言うことないね。」
春の日差しの中、重なりあう命の温もりが愛しくて、優しい気持ちが嬉しくて、
そのまま瞼を閉じると、二人そろって幸せな夢の中へおちていった。