【書庫】
□元旦物語
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「あけましておめでとう。」
近藤局長の張りのある一言で今年は始まった。
ピリッとした清々しい空気のなか、新選組幹部たちはいつもより光沢のある板張りの広間に座していた。
年明けの微かな緊張感が張るなか、屠蘇散を年少者から、つまり平助、総司…の順に回して呑む。
「今年一番の酒だ。
ありがたく飲めよ。」
土方は笑みを湛えて、広間を見渡す。
酒は得意ではなかったが、年に一度のこの独特の味は嫌いではなかった。
土方に回ってくると、そっと盃に唇をつけて傾ける。
渇いた身体に今年一番の潤いが喉を通り、ほんのりとした熱が灯る。
近藤が一番大きな盃で杯を飲み干すと、おおらかな表情で、しかし力強く話し出す。
「今年も新選組に幸多きことを願う。
君たちもどうか無事、この一年をすごせることを…!」
広間を微かな冬の陽射しがほんのり暖めだした頃、
重箱に入った御節と、それぞれの雑煮の椀運ばれてくる。
艶目く黒豆や、ふっくらとした伊達巻、味の染み込んだ煮しめ、色鮮やかな重箱の中身を皆で囲み、箸を進めながら喋る。
「新八、伊達巻ばかりとってくんじゃねぇ。」
「そーゆー佐之さんも数の子取りすぎ!」
「今年は黒豆がおいしいね。
土方さん、御節でなにか一句。」
「うるせぇ、総司。
大人しく味わってろ!」
「まぁまぁ、トシ。
ほら、蒲鉾もうまいぞ?」
「餓鬼扱いしないでくれよ、近藤さん…」
「ん?いらねぇなら俺が食っちまうぞ。」
「そうは言ってねぇ。箸出すな、新八!」
昔を思い出す。
皆でわいわい騒いだ記憶。
この時間も、きっとまた、いつの頃か思い出すだろう。
―願わくは、
この時と仲間が消え失せんことを………。