【書庫】
□できるなら、またこの桜の下で…
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年の瀬は忙しい。
屯所が広くなって、隊士の人が増えるのは嬉しいことだけど、その分大掃除も御節の準備も大変。
年末でも巡察を怠るわけにはいかないから、巡察の組は今日も町に出ている。
幹部の皆さんも忙しく走り回ってるけど、まだまだ人手は足りなさそう。
…できるだけ私も頑張らなくちゃ!
そう思って廊下の雑巾がけを始めた。
長い廊下を休みなしに雑巾をかけて走ると、何往復かするだけで息が切れてしまう。
足腰も疲れてちょっと休憩していたら、後ろから声がかかる。
「よっ、千鶴ちゃん!」
「永倉さん!」
振り返ると太い竹を持った永倉さんが立っていた。
私はその竹をしげしげと見てしまう。
「それ何に使うんですか?」
随分立派な竹ではあるのだけれど、その使い道が思い浮かばない。
「こいつァ【門松】にするんだよ。」
永倉さんは持っていた竹を、こんこんと拳でたたく。
「あぁ!お正月飾りですか!」
そういえば江戸にいた頃、こんなに太い竹ではなかったけど、父様も年末には門松を作っていた。
なんとなくその頃が懐かしくなる。
「それより、この長い廊下を一人で雑巾がけするのは大変じゃねぇか?」
永倉さんは私と後ろの廊下を見る。
「いえ、大丈夫です。
私にできることですから。」
にっこり笑って私は拳を握って見せる。
「いや、でも終わんねぇだろ。
ちょっと貸してみろ。俺がダーッとかけてきてやるからよ。」
そういうと永倉さんは持っていた竹をおろし、私の手から雑巾をひょいと取ると、すごい勢いで廊下をかけだしてしまう。
(速い……っ!!)
確かに彼は私がやるよりも何倍も速かった。
「あとは俺がやっとくから、千鶴ちゃんはその竹を中庭に持ってってくれ!」
廊下の端から永倉さんが叫ぶ。
…ちょっと申し訳ない気もするけど、絶対私がやるより効率いいもんね。
「ありがとうございます!」
私は随分離れた永倉さんに向かって、大きく頭をさげた。
そして見た目よりも軽い竹を抱えて中庭へ向かった。