【書庫】

□私立新戦組幼稚園
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ここは都内のとある私立幼稚園、
―【新選組幼稚園】

血気盛んな幼稚園児達が、今日も腰に新聞紙を丸めたちゃんばら刀を差して遊んでいます。


「ちづる、」

おままごとをして遊んでいたちづるちゃんは、名前を呼ばれて振り返ります。

そこにはクラスで一番ちっちゃいへいすけくんがいました。

「おまえも"大捕物"しに行くか?」

へいすけくんは元気よくちゃんばら刀をヤーッと振り上げます。

「しんぱっつぁんがしんがりで、さのさんと俺でわるいやつを捕まえに行くんだ!!」

ちづるちゃんは目をぱちくりさせています。

「【わるいやつ】…って?」

へいすけくんはにぃっと笑うと戸惑っているちづるちゃんの腕を引っ張ります。

「まぁついてこいって!」



そう言われてへいすけくん、しんぱちくん、さのくんに連れてこられたのは園庭の裏。

そこには『かざまくん』こと『ちーちゃん』がいました。

ちーちゃんはちづるを見つけると、とても幼稚園児とは思えないひねた笑みを浮かべました。

「俺に逢いにきたのか、【わがつま】よ。」

ちーちゃんはちづるに向かって手を伸ばします。

だけど…

「ちづるに手をだすな!!」

しんぱちくんがちーちゃんの前に立ちはだかりました。

「きょうはおまえを倒しに来たんだ!」

さのくんも新聞紙の棒を前に突き出しました。


「ふん、『にんげんふぜい』が…。」

ちーちゃんは小蝿がうるさい、とでもいうような顔をします。

「わがつまよ、すぐに治るとはいえ顔に傷でもついたら困る。こっちへ来い。」

手をこまねいてちーちゃんはちづるを呼びます。

「え、でも…」

困った表情でちづるちゃんが動けずにもじもじしていると、ひじかたくんが怒鳴り込んできました。

「おめぇら何やってんだ!
園規をわすれたのか!私闘はごはっとだぞ!」

叫ぶひじかたくんの後ろには、いつも通り一くんが半歩下がってくっついています。

「しんぱち、さの、へいすけ、刀をおさめろ。」

まるで全てを達観したかのような静かな声ではじめくんは友達を牽制します。

「でも…!」

食い下がるへいすけくんの右手を一くんがそっと押さえます。へいすけくんは仕方なさそうに刀にかけた手をおろしました。

「ふん…園の犬どもが。」

ちーちゃんは横槍が入ってつまらなさそうです。

「しんぱち、さの、へいすけ、おまえらは後で正座だ。
かざま、おまえは…」

ひじかたくんは怒ったような困ったような顔をしました。

「なんで喧嘩しかできないんだ。もっと『きょうちょうせい』を持ってだな…」

ひじかたくんが苦々しげに、唯我独尊オーラを放ちまくるちーちゃんに説教をします。
そこに、

「ひじかたさん、その子の相手なら僕にまかせて。」

にこっと笑って入ってきたのはいつも笑顔で何をかんがえているのかよくわからないそうじくん。

「そ―じ、おまえになんとかできるのか?」

はじめくんは信じられない…というように小さくて細い眉を寄せます。
ひじかたくんは悩むように唸っています。

それと対照的にそうじくんは楽観的な態度で笑っています。

「だいじょ―ぶ、だいじょ―ぶ。
だって僕、子供の扱いうまいから。」

【こどものおまえが言うなよ…】と、悩み込むひじかたくんと、興味が失せていたちーちゃん以外の一般人は思いました。


「ちーちゃん、こっちでちづるちゃんの将来予想でもしようよ。」

そうじくんはちーちゃんを呼んで木の影にいきます。

「ほぅ、キサマがわがつまを語るか。」

ちーちゃんはニヒルな顔に心底面白そうな笑みを浮かべてそうじくんに寄ってゆき、なにやら話し出します。

「わがつまの最大の魅力はあの…」
「ちづるちゃんは天然、愛され…」

話し込んでしまった二人からは、何か近寄りがたい、否、近づいてはいけない雰囲気が発せられていました。

「……………。」

ひじかたくんをはじめ、はじめくん、しんぱちくんたちも皆、なんとも言えない表情で二人の密談を見つめていました。



よくわかっていないちづるちゃんだけが【ふたりは仲よしなんだなあ】とにこやかに見ているのでした。
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