【書庫】
□薬
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「うっわ!!
土方さん、くま、くま!」
廊下を曲がったところで土方に出くわすなり、平助は驚いた声を上げて思わず一歩退がる。
「あぁ?熊がど―した。」
明らかに不機嫌な土方は平助を睨むように見下ろす。
その顔色は土気色で、ひどくやつれているように見える。
「いや、土方さんの目の下!
すげぇくまになってるよ、」
大丈夫かぁ…?と眉を寄せて土方の顔を心配そうに覗く。
「……問題ない。」
土方はそう言うと、平助を避けるように脇を通り抜ける。
平助が土方の背中を振り返るとすぐに、土方がハァ…と溜め息をつくのが聞こえる。
(…やっぱ疲れきってんじゃん……。)
まったく素直じゃないんだからなぁ、と今度は平助が困ったようにハァ…と溜め息をつく。
そんな二人の様子を、向かいの角でそっと見守っていた二人がいた。
「…………。」
「強がっちゃって。ど―こが『問題ない』んだか。」
そう言って総司はくつくつと笑う。隣の斎藤は黙ったままだ。
「このままじゃ倒れちゃうんじゃない?土方さん。」
総司の言葉を聞くと、斎藤は眉根を寄せた。
「…そんなことになったら大問題
だ。」
そう言う斎藤の声は静かだが困厄の重さが響いている。
それを聞いて総司は真顔になる。
「まったくね…」
そして総司と斎藤はそろって溜め息をついた。
「…土方さんが溜め息ばっかついてるからみんなに溜め息がうつっちゃう、っていうのも問題なんですけどねぇ。」
そう言うと、総司はまるで面白い悪戯を思いついたかのように斎藤に笑いかける。
「これは強制的に眠ってもらうしかないですね。」
楽しそうに笑う総司を見て、斎藤は怪訝な顔をした。
「一体何を……?」
「いいからいいから、一くんもちょっとこっちに来てよ。」
総司はちょいちょいと手招きすると楽しそうに廊下を歩き出した。