MtΧM

□牡丹雪兎
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…そっちのが悶えるわ!!
月またぎ100人斬りもあとワンターンイケるわ!
イかねぇけど。

「ちょ…待てよ、雪うさぎで2対4体…白と黒?」
「二人零和有限確定完全情報ゲーム」
「…リバーシか!?」

リバーシ。
要はオセロだ。

俺が唯一、どんな相手にも負け知らずのボードゲーム。

どんな相手にも…。
例えそれがニアでも。
Lは…そんな娯楽な機会もなかったしなんか怖えぇんで割愛する。

リバーシは
“A minute to learn, a life time to master”
(覚えるのに1分、極めるのに一生)

とか呼ばれてて、メロはよく一生かかるものをハタチそこらのチャラい若造が無敗とかなんなんだお前は!と憤慨してるが、俺からしてみりゃメロの多才のがスゲェ。

メロは自分の聡明さに勝手にセカンドを植え付けてるけど。
潜在的なオールラウンドスキルは圧倒的に俺より上。


そんな訳でリバーシ、雪うさぎと来たら自ずと答えは出てくるんだが。

「4パターンあるんデスけど…」
「お前の一番得意なヤらしいヤツだ」
「ヤらし…d7型か…」

リバーシには定石てのが何パターンも存在してて、白と黒の流れで最善な打ち方つか…
先人たちが苦労して築いてきた綺麗な型のセオリーがある。

ほかにもネコとか牛…飛行機なんてのも存在する。
雪うさぎ定石は俺の王道パターンだ。

言っても定石を全部丸暗記出来てしまうメロやニアに比べて、俺は途中からアレンジ加えちゃったり姑息な揺さぶりかけたりすっから完全に型にハマってるわけじゃない。

だからの無敗、ってのもある。
ワイミの落ちこぼれが変なトコで伝説作っちゃうわけが。
ちゃんとあるんスよ。

「つー事は9−g4からの13−d7って…」

視線を宙に彷徨わせた俺にメロがヒントを与えてきた。

「手は関係ないけどな」
「関係ねぇのかよ!」
「あんまり複雑にするとオーバーワークの脳に届かないだろう」
「そらご心配痛み入ります」

買いかぶってんだか見くびってんだかどっちなんだ。

しかし手は関係ないとすると。
本来の意味なら9手目にg4が定石…
9はスルーとしてg4…G4…

「パソコンか」

閃いた。
オーバーワークの脳に届いた。
そういや俺のサブノートPCがPowerBook G4だったな……ってオイィ!!

「ノートパソコンに板チョコを挟むなや!」
「薄いから隠しやすかった」
「そういう使い方じゃねぇからね。てか思いっきり見えてんじゃん」

メロは小さい子どものように喉の奥でククっと笑った。
ああもうこの可愛さどうしてくれようか。
てかなんで板チョコ?
メロ誕?

よくわからんチョイスだったが、一旦板チョコをテーブルの上に置き、宝探しを再開する。

d7はすぐにわかった。
この部屋でd7に関係するものと言ったらそれを奏でることが出来るギターしかない。

Dセブンスコード。

隅っこに置かれたそれは、いつか俺がたいした意味もなくなんとなく買ってみたゼマティスのアコギ。
サウンドホールがハートになってて、キュートなデザインがやたら俺に主張してきてたんで気紛れにお持ち帰ってみたんだが…

「ちょ、メロちゃん!?」
「お、見つかったか」
「この有様は…一体」
「ハピバマット」
「ハピバじゃねぇよ!穴にモノを入れんな!」
「なんかエロいぞ」
「いやあのね…」

見るとサウンドホールにみっちみち、なにか菓子的なものが押し込められている。

よくこんなとこに詰めたなオイ。
わざわざ弦外したのか。
…にしても。

「なんなの?これ…」

帰ってきてからこっち、脱力スゲェんだけど。

新しいタバコに火を点ける暇もねぇ。
メロの隠し場所が容赦ねぇ。
ギリギリ器物破損しない程度の際どさを保っている。
しかも中身スイーツとか。
乙女かっ!!

「お前好きだって言ってたじゃんバームクーヘン」
「は…」

メロが銀縁メガネを外しながら小さなあくびをした。

そういえば…。
言った。
確かに言った…が。

俺の記憶が随分と昔の引き出しをこじ開けた。

たわいもない会話。
日常に埋もれてしまうくらいの、どうでもいい会話。
記憶の断片にも引っかからないような橋の下の話。

あん時はいつにも増してメロが生返事だったから、聞いてないもんだと…
てか一回しか口に出したことがない俺の唯一の好み。
覚えてくれてたことに軽く感動すら受ける。

まあそれをギターのサウンドホールに詰めようと思う発想からして普通じゃねんだけど。

「乾杯しようぜ」

メロが背中の裏から出してきたのはシングルモルトのウイスキー。
どっから出してんだっつう。
あったまって…
いや、メロの体温のホットウイスキーも悪くない。

片手に掲げられた酒瓶を見るとブラックボウモア42年ものだった。

「レアモルトじゃん!またスゲェの持ってきたな!」
「出世払いな」
「誰の!?」
「お前の」
「うそやめて」

スモーキーなそれは俺たちがまだこの世に生を受けるずっと前。
1964年の荒々しい時代の香りがした。

俺たちがもし42歳になって、こんないぶし銀な深い味わい的なヤツ出せたら…
なによりメロと一緒に居られたら。

少しはこの世に生まれたことを幸せと思えるだろうか。
馳せる未来はちょっとくらい居心地がいいだろうか。

ふいに鼻の奥がツンとした。
人体の素直な条件反射は好きじゃない。
俺は咄嗟に繕った。

「なぁメロ…なんでどっちも甘いもの?」
「なにがだ?」
「いや、板チョコとバームクーヘンて」
「俺の好きなものとお前の好きなもの」
「は…?」
「一緒に食いたい」

ちょうど食いかけていた俺の板チョコが、パキリと小気味よい音を立てた。
一瞬、時間が止まった。

メロの意外なデレにクラクラする。
ちょ…雪うさよりヤベ…

「だいたいお前はいつもジャンクなんだ、今日くらい甘いものだってイイだろ…」
「イイ!!」

たまらずメロの口唇にキスを落とす。
半ば強引に。

体温感じたらもう無理、限界。
ついうっかりつって言い訳メイビィさながら押し倒してやった。

何回も…何回も角度を変えて。
柔らかな口唇に…。
口移したチョコレートが溶ける。
俺も溶ける…。

「っは…意味…違…ンン」

メロの抗議も飲み干す程に。
俺の舌が甘いメロを覚えるように。
深く深く。

愛してるなんかじゃ足りない。
俺の全てなんだって。

感じてよ…メロ。
そしてお前の全部を俺にくれ。



この長く甘いキスが終わったらメロに教えてやろう。
北国には三方六っていうチョコ掛けバームクーヘンがあってだな、なんともれなく一緒に食えてしまうということを。


END
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