MtΧM

□牡丹雪兎
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吐く息すら瞬時に白い煙に変換される質の悪い錬金術みたいな真冬の朝。

昨今、文字通り煙たがられる喫煙者にとっては格好のカモフラージュだよなとか思いながら、俺はメロからの極悪依頼を終え、疲労感のガッツリ残る足を引きずりながら帰宅の途に着こうとしていた。

祝月(いわいつき)と如月を股にかけた華麗なるメロジョブはかなり攻撃的で、軽い気持ちで返事したことに激しく後悔してた。

いくら俺が優秀なスナイパーだつったって、3桁相手はけっこう無理。
しかも集中力の途切れるオールでの任務はそろそろご遠慮してもらおう。
お肌が曲がるどころの騒ぎだし。
超絶ねみぃし。

てか買いかぶりすぎなんだっつう。
言ってなんだけど、マトくんそんな優秀じゃねぇからな。

99人目で意識も魂も持ってかれるかと思ったつうの。
訳のワカラン死神界に疲労困憊の片足突っ込んだつうの。

呼吸なんだか煙草なんだか、もうどうでも良くなった白濁気体を空に還し、アパートの前にたどり着くと迎えてくれたのは。

金髪の…
マイハニーじゃねくて。

ちょこんと固められた白い物体だった。
俺も固まる。

「なんですかねこれは」

重たい足が脱力感により一気に緊張を無くしてくのがわかった。

玄関の前に均等に並べられているソイツは、俗に言う…white hare
日本では「雪うさぎ」と呼ばれているものだ。

「ちょ…メロが作ったのかコレ?」

いっこじゃ飽き足らず、白うさと黒うさが交互に2匹づつ。
ちゃんと赤い実と翠の葉っぱを付けてもらっていてなんとも愛くるしい表情でこっちを見ている。

オイ、かわいいじゃねの。
全く意味わかんねーけどかわいいじゃねの。
イヤマジ意味わかんねんだけど。

黒って…雪になに混ぜたんだよ。
てかこれを一生懸命作成してるメロを思うと身悶える。

俺はその可憐なうさぎちゃんたちを踏んづけないように、部屋に足を踏み入れた。
感じた疲労感はもうどっか行ってた。

「あーただいま」
「おう思ったより早かったな朝帰りマット」
「イヤ誰のせいだよ」
「お前」

軽口もそのまま。
メロは普段と同じテイでそこに居た。

細い銀縁のメガネをかけ、英字新聞片手にチョコを嗜む。
いつもと変わらない風景。

まるで外のお出迎えうさうさ攻撃なんてなかったかのように。

俺は例の意図を確かめるべく、メロの横にドカッと座り込む。

「メロちゃん?」
「あー?」

視線を新聞から逸らさずにメロがした生返事は、いくら考えても雪うさに辿り着かない。

「あのメルヘン空間なに?」

薄笑いを浮かべて初めてメロがこっちを向いた。
悔しいくらいに美人だ。

メロとの空間を意識した俺の耳に、新聞を畳むカサカサした音がやけにハッキリ聞こえた。

「気付いたか」
「そら気付くよね気付かんほうがおかしいよネ」
「ハードな任務で頭おかしくなってないみたいでよかったな」
「ああよかった…て質問の答えをくれ!なんだよあのミニ雪まつり」
「サイファ」
「は?」

メロの発した言語が理解できない俺は本当におかしいのだろうか。

サイファ…?
暗号…
ZERO…
つまらない人物…

「え?どのサイファ!?」
「あー…てか、護符…タリスマンも兼ねている」
「メロ君は何をいってるのですか?」
「ハハッ、だよな」
「だよな、じゃねぇよ」
「あの雪うさの耳と目は南天を使っている」
「南天?」
「ああ、日本では厄除けと…その名にちなんで難を転じるという意味があるらしい。滞りなく難を転じたろ?」
「や、そうだけど!ギリ滞りそうだったっつの」
「お前の身を案じてやったんだ感謝しろ」
「スゲェ角度からねじ込んできたな!」

そのツンデレに見せかけた俺様。
どこでマスターしたんだよ。

メロの口から時折漏れる「うさ」に内心悶えつつも、俺は兼ねているもう一つが気になっていた。

メロはサイファと言っていた。
そして俺の仮説は良く当たる。

この任務がもし、ずっと一緒にいる引きこもり俺を外出させる為だったとしたら。
オールしなくちゃならないくらいの内容をあえてブッ込んで、その隙にメロがここに細工を施してたとしたら。

例えばそれが…
俺のアレ的サプライズだったとしたら。




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