過去拍手

□第七回
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<花火大会>




「ほらほら、那岐ってば早く!」

「分かったから、あんまり急ぐと転ぶよ」


笑顔で那岐を急かす千尋とそんな様子を見て呆れている那岐。


「大体こんなに急ぐ羽目になったのは千尋のせいだろ」

「うっ……だって髪の毛が上手くまとまらなかったんだもん…」


千尋は金色の髪を高い位置で結い上げ青い簪をさしている。
髪型自体は普段とさほど変わりはないがそれ以上に目が行くのは千尋の格好だろう。


「…本当に僕も行くのか?」

「もう、今更 何言ってるの?
皆にちゃんと行くって言ったんだから」


今日は近くの河川で行われる花火大会にクラスメイトで集まる事になった。
そこで女子は全員 浴衣を着る事が決定した。


例に漏れず千尋も浴衣を着ている。

金色の髪に青い瞳を持つ日本人離れした容姿でありながら涼しげな水色の浴衣は千尋に良く似合っている。

家を出てくる前 風早には『すごく似合っていますよ』と褒めて貰ったのだが何故か那岐は先程から不機嫌だ。


「あ、ほら皆もう来てるよ。
遅れてごめんねー」


走って友達の方へと向かう千尋。


そして那岐の耳には不快な言葉が入ってくる。


「やっぱ葦原さん綺麗だよなぁ」

「あ、俺も思った!
浴衣姿とか新鮮だし余計にって感じ」


それが那岐の眉間に一層深いシワを刻んでいく。


(だから嫌だったんだ。あんな姿を他の奴に晒すなんて…
ましてその評判を聞くのは僕なんだ)


そんな那岐の心境など知るべくもなく千尋は笑顔で話しかけてくる。


「ね、那岐、もうすぐ花火始まるみたい。
皆 移動するんだって」

「…ああ」


クラスメイト達は既に移動を始めている。


「……あれ?」

「大分 人が増えてきたみたいだな」


もうすぐ始まる事もあってか一気に人が増え辺りにクラスメイトの姿は見えない。


「えっ、はぐれちゃったのかな!?」

「…いいよ、別に」

「いいって何が…」


不意に真剣な表情の那岐と視線がぶつかる。


「千尋は僕の隣に居ればいいんだよ」

「…な、ぎ……?」


那岐が顔を逸らすと同時に花火が始まる。


「千尋のそんな格好、他の奴に見せたくないんだ。
良く、似合ってる…から…」

「……ありがとう」


千尋は那岐の側に寄りTシャツの裾をそっと掴んだ。


那岐はそれに気付き数秒の後 千尋の腰を抱き寄せた。

周りにいるたくさんの人の事も今は気にならない。

ただなるべく二人の距離を無くしたかった。





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