過去拍手

□第二回
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「千尋からキスしてよ」

「…は?」


那岐の口から出たのは突拍子もない事だった。


「なななな、なんで……」

「千尋って言葉の割には行動に移さないだろ?
別に初めてなわけでもないしさ」


すっかり真っ赤に染まった千尋の顔を見つめながら那岐は意地悪そうに笑う。


「で、でも……」

「大切な人に自分の気持ちを伝える日、なんだろ?
千尋からの言葉ならいつも聞いてるよ。
今日なら特別な日なんだしそれくらいしてもいいんじゃない?」


『大切な人に自分の気持ちを伝える日』
その言葉が千尋の心を惑わせる。


しばらく固まった後、ようやく千尋の口が開いた。


「…分かったわ…」


にやりと一層那岐の笑みが深くなる。


千尋は那岐の肩を軽く押すとその場に那岐を座らせた。
自分も那岐の足の間に膝立ちになって目線を合わせる。


「…あ、の……目、閉じて…?」

「ん」


いつもと違って那岐を少し見下ろす形になる。
心臓の音がどきどきとうるさいのが自分でも分かった。


長いまつげに整った眉毛。
軽く閉じられた唇に色素の薄いサラサラの髪……


(那岐ってこんなに綺麗な顔してたっけ……)


そっと顔を近付けた。
唇が触れるまであと3センチ。







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