紅一葉
□T:始まりの音色
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〜♪〜
和風な音が軽快に流れる。それに合わせて私は踊る。
「素晴らしいわ…!!」
「本当に!梨帆さんお美しくなられたわ…」
「まさに美しいの一点に尽きる、ですなぁ」
私の家は吉沢流という代々日本舞踊をやっている名門一族。
その中でも、私の祖母にあたる梓おばあ様は本当に素晴らしかったと今でもよく聞く。
私もおばあ様の様に素晴らしい舞踊ができるようになる為に毎日舞台に追われているのだった。
―音楽が止まり、私の動きも止まった。すると、歓声や拍手の嵐がやってきた。
この瞬間が舞踊をやっている中で一番最高に嬉しい。
その気持ちは今も昔も変わらない。
おばあさまの様になりたい、だけど。
―普通の女の子に、なりたい―
何時の頃からか、心のどこかでそんな事を思うようにもなってしまった。
本当ならば私の歳だと結婚している子だって世の中にはいる。
少なくとも、'恋'というものをしているはず。
生憎、私は昔から外の人との面会は限られており、最近になってやっと外出許可が出たぐらいだ。
『(ん?)』
ふと客席を見ると、遠くに終わってもなおまだ座っているお客さんと目が合った。
『(綺麗な金髪…外国人さんかしら?)』
珍しい。
外国人さんが私の舞台を見に来るなんて。
『(!いけない。次の舞台の為に準備しないと)』
私は急いで舞台から去った。