とある馴れ初めの物語

□決意
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オプティマスの無言の帰還に、報告を受けていた人間達も信じれないといった様子だった。
どれだけ彼の存在が、その影響力が大きなものであったのか、改めて思い知らされることとなってしまった。

指揮官であるレノックスも動揺を隠せずにいた。
自分達はオートボット達と共に戦い、良いチームになれたと思っていた。
実際にそうだと言えるが、内心、自分達にはオプティマスがいるから大丈夫だと思っていたのかもしれない。
無意識のうちに、彼を“勝利の象徴”であるかのように思い込んでしまっていたのかも…
その象徴を失ったことで、隊員達に絶望のような空気が漂うのを肌で感じる。
このままではいけない…
そうは思っても、自分でさえその絶望に飲まれそうになっている。

「少佐…」

落胆の空気の中に更に追い討ちをかけるように突入してきたのは、大統領補佐官のギャロウェイ氏だ。
彼はオートボット達を良くは思っておらず、あまりこんなときに会いたくない相手でもあるが、ギャロウェイ氏は自分に忠実な“軍隊”を引き連れ、オートボット達に武器を向けたのだ。

「武器をおろせ!何の真似だ!」

突然のことに反抗するレノックス達に、「大統領命令だ」と冷ややかに紙切れを突きつけた。
こんな紙切れごとき…
そうは思っても、大統領からとなればその重みは紙切れ一枚のそれではない。

「エイリアン同士の戦いで人間の兵士が死んいでるんだぞ!これは最早我々の戦いなのだよ!」

そんな風に大層な演説をする姿は、由々しき事態に奔走する補佐官というよりも、弱い立場となったオートボット達に威張り散らすようにしか見えなかった。

我々のという言葉に、アイアンハイドとラチェットが顔を見合わせる。

『あの馬鹿は大きな勘違いをしている。』

空気は読めないがディセプティコン以外に暴言を吐くタイプではないラチェットが、遠回しにもせずストレートに馬鹿と言い放った。
それほどおろかな行動を起こそうとする人物が、目の前にいるのだ。
レノックスが必死で説得をしているが、国家権力を持った“紙切れ”はどんな兵器よりも強いらしい…

彼らをよく思わない人間の“独断”によって、NEST部隊は解散を言い渡されてしまった。

司令塔であるはずのレノックスは、国家権力の前に無力な自分に苦虫を噛む…

“オートボットは格納庫へ…”

『アイアンハイド、地球を離れるべきではないのか?』
『…オプティマスは、そんなことは望まない。』
『うむ…確かにな…』

彼なら地球に残り、策を練るはずだ。
彼なら、こんな状況でさえ希望となってくれるはずだ…

『格納庫で考える…』
「…やけに冷静だな、アイアンハイド。」

溜め息を一つ排気したアイアンハイドの足元に、レノックスが歩み寄る。

『踏み潰してもいいというのならそうするぞ?だが、後のことを考えて迂闊な行動は控える。』
「策は…?」
『さぁな…なんにせよ、奴にとっては俺達が“全部”なんだろう。』

全部、というのは、オートボットの頭数のことだろう。
いったいどれだけの数がいるのか、情報を万が一把握していたとしても、今どれだけ“生存している”のかは正確に把握できてはいないはずだ。

命令におとなしく従うふりをして、ゆっくりと格納庫へ向かうアイアンハイド。
レノックスは、彼らの行動を見守るふりをしながら隣を歩く。

「賭けるか?」
『ああ。お前はどうする?レノックス。』
「俺は…そうだな…」

「そこのエイリアンと軍人!何をこそこそしてるんだ!?」

「…俺は、命令には従うことにするよ。」

アイコンタクトをしてそう答えたレノックスに、アイアンハイドは黙って頷いた。

『アイアンハイド、レノックスは何と?』
『あとは任せろ、だとよ。』





《決意》





メガトロンを食い止める。
涙ながらの懇願に、ジャズも渋々だが折れてくれた。
サムといる情報がバレているであろうバンブルビーたちには、彼らの居場所が突き止められることを恐れて連絡をとることができず、決意は固まっていたものの、すっかり行き詰まってしまっていた。

『ユラ?』
「ごめんなさい…」
『謝るなよ。』
「馬鹿なこと言ったから…」

無茶を言った自分のために、ジャズはついてきてくれている。
自分は、彼の気持ちを踏みにじるような発言をしたというのにだ。
オプティマスが殺されるのを目の前で見ておきながら、メガトロンが好きだなんて…
軽蔑されてしまったかもしれないと、ジャズの顔さえ見ることができずに膝を抱く。

『まぁ、ぶっ飛んだことは言ったけどな…』

顔を上げると、今度はジャズが俯いていた。

『けど、手遅れになる前にってのはユラが正しいぜ?俺はそんな判断すらできなくなってたから…』
「…」
『オプティマスに言われてたんだ…判断が鈍ってるって。自分でも、いつもの俺じゃないってわかってたけど認めたくなくてよ…任務から外されるんじゃないかって思ったら怖くなって反抗しちまった…』
「ジャズさん…」
『オプティマスが正しかった…わかってたはずなのにな…』

ギリギリと音をたてて握りしめられた拳…
苦しげに顔を歪めるジャズに、言葉は出てこなかった。

しかし、敵は待ってはくれないようだ。
ジャズの視線の先に、自分を拐ったと思われるあのパトカーが迫っている。
後をつけられたのかもしれない…

『…ユラ、下がってろ…』

今日だけで何度ディセプティコンに追い回されたことか…今は悲しむ暇もないらしい。
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