とある馴れ初めの物語

□攻撃開始
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『最後のプライムが死んだ…』



垂れ下がったケーブルを引きちぎりながら、ザ・フォールンは立ち上がった。

生きていくための仕方のない犠牲、それを認めなかった愚かなプライムたちはもういない。
自分を倒すことのできる存在も始末できた…

自分達の故郷よりも他の星の生命体を生かすことを選ぶなど、彼には狂気の沙汰だとしか思えなかった。
しかし、プライムたちはその道を選んだのだ。
自分達を犠牲にしてまで、無知で、愚かで、泥にまみれた汚い虫けらを生かすことを選んだのだ。
そして、反旗を翻した自分を食い止めるべく、“鍵”を封印してしまった。

太陽を破壊すれば、膨大なエネルギーに成り得るだろう。
自分達の命を繋ぎ止めることができる。
そして、その準備は整った。
不安定な弟子という、一抹の不安を残しているが…

名を与えてやった弟子は誰よりも強かった。そして、誰よりも賢かった。
師である自分すら追い抜いて行く勢いで成長を見せた彼を慕い、ついてくる者は数多くいる。

しかし、そんな出来すぎた弟子には致命的な欠点があった。
彼は情に脆かったのだ。
どれほどの実力があろうと、彼は冷酷にはなれなかった。
そのために、オートボットや先代のプライムから説得を受けることも何度もあったほどだ。
もしあれがオートボットに鞍替えしたらと思うと、万全ではない状態の自分には脅威でしかない。

言いくるめられるのではと懸念していたが、弟子はいい意味でも情にほだされやすく、師と慕う自分を裏切ることは頑なにしなかった。
そして己の弱味をカバーするために感情を圧し殺し、冷徹な人格を自ら造り上げていったのだ。

それは“メガトロン”という名の単なる仮面にしか見えないが…それで十分だと思っていた。
良心とは弱いものだ。
いずれ、自ら生み出した闇に押し潰されてしまうだろうと践んでいた。
その判断が裏目に出ようとは思ってもいなかったわけだが…大方、眠っているうちに感情を抑え込むということを忘れていたのだろう。
制御ができず、感情が不安定なときに小娘に出会い、忘れていた良心を思い出してしまったのだ。

スタースクリームには、面倒なことになる前にと小娘の始末を命じたが、あれはそんな簡単な仕事でさえしくじるらしい…

『弟子も弟子だが、その部下も…とんだ青二才どもだ…』

ザ・フォールンはメガトロンとの接触がないプロトフォームのディセプティコン数体に、直接命令を下した。
こんな面倒な処理をするはめになるとは思ってもいなかったが、後々支障が出るのは御免だ。

『あの人間の女を潰しておけ。』





《攻撃開始》




『ディセプティコンにはお前のファンクラブでもあるのか…!?』

ユラを乗せ、他のオートボット達よりも後ろを走っていたジャズだったが、追い付く間もなく数体のディセプティコンが襲い掛かってきた。
プロトフォームのままで、地球上の言葉は話さない。
足留めのためかと思ったが、それならオートボット全員を対象とするはずだ。
自分達だけということは、またユラだけを狙ったのだろう。

『ユラ、少し暴れるぞ?』
「い、嫌ですっ!ジャズさんまで…死んじゃったら…」
『ユラ…』
「…嫌…っ…」
『悪いが…良い子にしててくれ。』

ジャズは強引にユラを降ろし、追ってきたディセプティコンに応戦した。
プロトフォームが5体。
なんということもない雑魚のようで、暴れると言うほどのこともなくあっという間に片付いてしまった。
だが、やはり彼らはユラだけを狙っていたらしい。
数で取り囲めば問題ないと思ったのだろうが…

『こんな雑魚相手に死ぬかよ。』
「…」
『おいおい…泣くなよ、頼むから…』

ユラの前に膝をつくと、その小さな体を引き寄せ、両手で包み込んだ。

『やれやれだ…』
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