とある馴れ初めの物語

□誘拐
1ページ/4ページ





『駄目だ。オプティマス…悪いがユラは…』





《誘拐》





=ジャズ…頼みがある。

オプティマスからのそんな通信に、ただ事ではないと覚悟はしていた。
今の時間、ユラはまだ学校にいるし、不特定多数の中に紛れている。
オプティマスには単独で会いに行った。

確かに切羽詰まった状況ではあったが…ジャズはオプティマスの言葉も終わらぬうちに拒否の言葉を口にしていた。

オプティマスの頼みとは、ユラを基地に呼びたいというものだったのだ。
オートボットが地球に残っているせいで、オートボット達を狙ってディセプティコンが現れるのだと疑われている。
今はディセプティコンに不穏な動きが出ているし、勘違いを解かなければ手遅れになりかねない…
そこでサムに説得をと頼んだが拒否されたらしく、苦肉の策としてこちらに連絡を寄越したのだそうだ。
しかし、ユラはサムとは違う。
自分達に理解があるとはいえ、まだあの日のトラウマと闘っている。
ずっと一緒にいる自分には心を開いてくれるようになったが、まだあの人懐っこいバンブルビーにさえ会おうとはしないのだ。

『俺だって、できれば説得を頼みたいところだ…けどよ、やっと俺に怯えなくなったんだぜ?他のオートボットや軍人を見て…平気でいられるか…』
『心の傷は深いようだな…』
『正直なところ、これ以上俺たちのことに関わらせたくない。ただの一般人でいさせてやりたいと思ってるのに…』
『ジャズ…』

自分達が危機的状況であることはわかっていても、ユラを追い詰めるような真似はしたくなかった。
しかし、ユラをかばい続ければ、今度は自分達が追い詰められることになってしまう…
どちらを選んでもユラを苦しめることになりそうで、決断自体は決めかねていた。

『…この星から出ていけと言われたら、出ていくのか?なんとかならねぇのか?』
『…この星は我々の故郷ではない。先に暮らしていた住人たちが拒否するというなら、無理に居座るようなことはできない…』
『そうなったら、誰がユラを護るんだ…?』
『人間たちに任せる。』
『俺たちさえ居なくなれば安泰だと思ってる連中に、アイツを任せンのか…?』
『…』
『巻き込んだのは確かに俺たちだが、連中はユラに何かしてやったか…?疑うだけ疑って…心のケアもしてやらねぇじゃんかよ!』
『ジャズ…私たちを追放するというのなら、そのあとのことは全て彼らの問題だ。
彼らには彼らなりの考えもある。ただ無責任に決めているわけでは…』
『ふざけんなよ!』

思わず声を荒らげてしまったが、高ぶった感情を抑えることができなかった。

『客観的すぎんだよアンタは…それでいいと本当に思ってんのか?』
『…我々は侵略者ではない。この星の住人たちが我々を危険だというなら…』
『仕方がないってのか?』
『…』
『ディセプティコンの連中がこの星を滅ぼしにかかったら?指咥えて見てるのか?サムやミカエラは?ユラはどうなる!?』

最初は任務のつもりでユラとの生活を送っていたが、次第に心を開いて話してくれるようになると、放っておけない危なっかしさには心から護ってやりたいと思うようになり、健気な姿やはにかむ笑顔に惹かれていった。
例え気付いてもらえなくても、いずれ自分が必要ではなくなっても、そうなるときまではそばにいて護り続けてやりたいと思う。

『俺はアイツとずっと一緒にいるんだぜ?最初の頃は毎日泣いてたんだ。言葉だって話せるようになりたいからって自分から勉強しだして、心を開いて話してくれるようになったのはもっと後だ…今でも夢に魘されて泣いてンだぞ?』
『…』
『ユラを置き去りにして、この星から出ていけってのか…?』
『ジャズ、君のそれは責任感だけではないと思うのだが…私の勘違いか?』
『なんだよ…珍しく野暮なこと聞くじゃねぇか。』
『ジャズ…』
『悪いのか?』

情が移ったと知れれば任務から外されるかもしれないと、ずっと黙っていたが、ほとんど勢いに任せて白状した形だった。

『一方通行だが…苦しんでる姿を見ると胸は痛ぇし、最近じゃアイツが他の男にうつつを抜かすから結構拷問なんだぜ?』

オプティマスは咎めることをせず、ただ『そうか』と呟いた。
それでも身構えてしまうのは、任務に支障が出る可能性を自分でも理解しているからだ。

『なんだよ?』
『君の判断力が鈍るのではないかと、少し心配している。』
『鈍っちゃいねぇよ。』
『だといいが…』
『俺はアンタの“責任感”と“判断力”を疑うね。みんな置き去りにして、はいさよならなんて言うタイプじゃねぇだろ?』

司令官の彼に責任感や判断力がないわけはないし、どんなときであろうと的確に、時に辛い決断をしている姿も見てきている。
自分達から見れば歴としたリーダーだが、人間たちにはそうではないのだ。
共に戦ったレノックス達には信頼されているが、他の人間からはディセプティコンと同じ、侵略者や邪魔者として扱われている。
話し合いの場は設けられるものの、意見は一方的なものも多いはずだ。
彼は最悪の判断を下さなくてもいいように、サムやユラに助けを求めてきたことも、頭では理解していた。

『悪かったよ…まだアイツを疑うのか?』
『いや…そうではない…』

否定はしたが、こういう言い方をしたときはまだ何か考えがあるときだ。
オプティマスが常に考えうる様々な可能性を考え行動していることは知っている。
ユラが全くの無関係であるとも、今の状態では証明できないのかもしれない。

『…実は、こちらでも彼女のことは調べさせてもらった。』
『勝手にかよ…』
『だが、何も出てこなかった。』
『…』
『本当に、ごく普通の民間人だ。ユラと一緒にいたというディセプティコンのメモリを調べても、何も知らないユラをこの地に連れてくるところしか記録されていなかった。
メガトロンがなぜ彼女を連れ去ったのかわからないままだが…』
『まさか人間を利用するつもりなのか?』
『確かに、ユラには犯罪歴はないし、人に恨まれるような人物でもなさそうだ。君が言うような健気で良い子だというなら、それは従順な手下にも成り得るということだ…だが、そのつもりならあんな目立つことをするだろうか?』
『…』
『その可能性も考えられるが、我々やユラ本人も知らない理由があるのかもしれない。』
『本人も知らない理由…?』
『メガトロンは目的のためなら手段を選ばない男だ。』
『だがもう死んだ。』
『それは正しい判断と言えるのか?ジャズ。』
『っ…今さらンなって外すとか言わねぇよな?ユラは俺が護る。これからもだ。』
『…私にも、気持ちを咎める権利はない。だが、今の君の判断力は鈍っているように見える。感情的で、視野が狭まっているようにな。』
『わかってる…!』
『…君は、わかっていない。』
『ガキじゃねぇんだ。本当はわかってる。わかりたくねぇことも…』
『…?』
『悪いが、アイツを迎えにいく時間だ。』
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ