とある馴れ初めの物語

□長い序章
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街に降り立つと、メガトロンはユラを肩の上に乗せた。

「た、高い…う、う動いてる……」

どうすることも出来ず、ユラはただ必死にしがみついた。





《爪痕》





『Megatron!』

目の前に、メガトロンと同じく二足歩行のロボットが何体かいるのが見えた。
皆こちらに武器を向けている。
もうだめかもしれない…と、ユラはメガトロンの肩パーツにしがみつき、震えながら涙を溢す。

『Jazz!Don't shoot!someone is there!』
『Give me a break!!』

武器は下ろされたようだが、事態はきっとよろしくない…
分かり合えるかもしれないと思って無断で行動してしまった自分を呪った。

「お、降ろしてくださっ…!ひゃあぁっ!?」

一か八か、兎に角日本語で叫んでみるが、やはり伝わらない。
それどころか、メガトロンはユラを連れたまま変形し、“ジャズ”と呼ばれた比較的小柄な一体を引っ掛けて飛び立ったかと思えば、目が眩む高さに着地した。
どんどん逃げ場が失われて行く…

メガトロンとジャズが何を話しているかはさっぱりだが、時々ジャズが此方に向かって『飛べ』とか『来い』とか言っているのは聞き取れる。
簡単な単語だったために聞き取れたものの、下を見れば遥か彼方にひび割れたアスファルトが見えるのみ…

ただでさえ生きた心地がしないというのに、更に此処から飛べと?

これはあれだ。
無理というやつだ。

それもその手のひらを目掛けて飛べというのだろうか?

絶対に無理に決まっている。

「む、無理です!飛べません!」
『…Shit!!』
「ひぃっ!?」

あろうことか、ジャズはユラを乗せたままのメガトロンを攻撃し始めたではないか。
メガトロンにはまったく効いていないようだが、散々振り回されているユラは益々恐怖に縮み上がるしかできなくなった。

「や、やめてくださ…っ!きゃあぁ…!?」

汗で手が滑り、同時に、メガトロンが一際大きく動いたせいで振り落とされてしまった。

二人(?)が弾かれたように此方に目線を寄越す。

メガトロンは今まさに引きちぎろうとしていたジャズから手を離し、此方へと手を伸ばす。

ジャズもメガトロンとほぼ同時に此方へと手を伸ばす。

全てはスローモーションに見えた。

「うっ…!」

ジャズの方が放り出されたユラに近かったため、ユラは彼の手でしっかりと包み込まれ、ほぼ同時に身体中に衝撃と振動を感じた。
ジャズはビルに体をぶつけながら着地の衝撃を和らげていたのだ。

『Are you okay…?』

顔を近付けられ、そう聞かれたかと思えば、ユラが答える間もなく『おぅふ!?』といった感じの声をあげてジャズが吹き飛んだ。

ジャズの手から転がり落ちたユラは、再びメガトロンの鋭い指に捕らえられてしまう。

「ジャズさ…あぅっ!?」

今度はジャズの放った弾丸がメガトロンの手首に命中し、怯んだのか、メガトロンがユラから手を離す。
背中を強く打ち付け、息がつまった。
しかし、呼吸を整える間もなくジャズが『走れ』という。
逃げなくては…
その一心でメガトロンの足元をすり抜け、もつれる足で走った。

『You are mine!』

なんだか判りやすくて判りたくない台詞が背後から聞こえたような気がしたが、ユラは一心不乱に走った。

そこに、目の前から一台のトレーラートラックが走ってくる。
おそらくジャズの仲間だと思った。
そうでなければわざわざ向かってくるはずはないし、メガトロンの仲間であれば、おそらく自分の目の前で何か行動を起こすと思った。

すれ違い様、トレーラーは金属音を響かせながら姿を変え、メガトロンと同じくらいの巨大な二足歩行のロボットへと変貌を遂げると、メガトロンに向かっていった。

振り返れば街は壊滅状態…

あの2体が飛び去ったあとには深手を居ったジャズが立ち上がることも出来ずに瓦礫の下にいる。

なぜ自分がそんな行動にでることができたのかはわからないが、今だかつてないほどアドレナリンが分泌された結果だろうか?
格納庫での単独行動と言い、もしかしたら無鉄砲なところがあるのかも知れない。

ユラはジャズのもとへと走り、瓦礫を取り払いながら呼び掛けた。

「ジャズさん!しっかりしてください!生きてますか!?」

ユラの呼び掛けに反応するように、バイザーらしきものの奥に光が点る。

「ジャズさん!」
『…!?』

今度はジャズがパニックになる番だった。
逃げたはずのユラが戻ってきて、あろうことか自分を救出しようとしている。
自分さえ抜け出せずにいるというのに、こんなちっぽけな生き物には無理に決まっている。

『What the hell are you doing!?』
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