とある馴れ初めの物語

□長い序章
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硬い床を歩く足音は、少し神経質な性格を表すようだった。

ここでは、巨大な二足歩行型の金属の“塊”を冷凍保存している。
それだけではなく、その他にも、“世に出してはいけないもの”が多数保管されていた。

誰にも気づかれないように細心の注意を払わねばならない…
“アレ”が手に入れば、今行われている数多の研究を出し抜けるかもしれない。
否、必ず出し抜ける自信があった。
そして世界を揺るがす発明に、長い目で見れば、自分の国が世界の産業の中心になり得ると夢見がちだがそう思えた。

そんな壮大な野望を胸に、一人のアジア人がラボの扉を開ける。

「お疲れ様です。」

掛けられる言葉に適当に返事をして、小さなケースに入れた物に気づかれぬよう、平静を装ってチェックを受ける。

「ケースを開けても?」
「かまわないよ。いつもどおりだ。」

自らケースを開けて見せる。
几帳面に整理整頓されたその中には、書類を入れた封筒や、彼の私物が、まるで商品のように並べられている。

「しまった…サンプルを持ってきてしまったようだ。」
「ああ、やっぱりそうだ。反応があった。今すぐ返してください。」
「すまない、返してくるよ。荷物を此所に置いておいてもいいかな?」
「かまいませんよ。」
「それじゃ、頼むよ。おっと、失礼…」

アジア人の男は、先にチェックを済ませ出ていくスタッフとぶつかった。
普段からせっかちなイメージが付きまとうその男に、周囲は少しだけあきれた顔をした。

しかしそのアジア人は、悪いイメージというものは、時に便利なパスポートのようだとさえ思う。
なぜなら、この瞬間に“共犯者”にある物を渡したことなど誰もが知る由もなく、返しに行く振りを見せれば怪しまれることもない。
そうして、男が怪しまれることなく共犯者に渡したもの、それは“NBE-1”から削り取ったパーツの一部だった。
これから、様々な研究に役立てていける…
特殊な金属、テクノロジー、それらを自分の国の発明に活かすことができる。
しかし、こうも簡単にうまく行くとは、計画した本人も思っていなかった。

程なくして、難なくチェックを済ませてゲートを潜ると、アジア人はそのまま姿を消した。

-Megatron-の欠片を手にして。





《hello...?》





朝起きて、顔を洗う。

いつもと同じだ。
学校の制服に着替え、朝食を済ませ、出かける。

ざわつく教室、友人との他愛もない会話、何気なく過ぎていく時間…

全てが当たり前のことで、平和であることを誰も不思議には思わない。
この日常が崩れるかもしれないという疑問を持つものもいない。
全てはいつも通り、当たり前の毎日がそこにあって、高望みしなければそれなりの進路が約束されている。
ユラも、周囲と変わらず毎日を当たり前に生き、それなりの青春を謳歌していた。

「ね、◯◯たち別れたらしいよ。」
「マジ?やっぱ浮気してたんでしょ?」
「うん。でも他校の女子。」
「ないわー…◯◯かわいそう。」

そんな、自分とは少し異なる次元のクラスメイトたちの会話をBGMに、窓の外を眺めてため息をつくのもまた青春なのかもしれない。

嫌われるタイプではないが、これといった特徴もなく、目立つタイプでもない。
いつもクラスの中心にいるグループの恋バナに憧れたりもしているが、特に好きな異性もいない。
少女漫画のような恋愛に憧れはあったりするが、誰かと付き合うとか、自分に置き換えて考えるとどうしてもそういう気にはなれなかった。
単に、異性と会話をするだけで緊張してしまい、何を話しているかさえわからなくなってしまうという厄介な性格のせいでもあるのだが…
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