とある馴れ初めの物語

□その感情の名前
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それぞれのビークルに乗り込んでオプティマスの元へ急ぐ。
途中、レノックス達の上げた照明弾が見えた。

『チッ…』
「ジャズさん?」
『とんだご挨拶だな…まったく…』

ユラは照明弾に気をとられていたが、4台のビークルを目掛けて無数のミサイルが降り注ぐ。
撃ったのはスタースクリームだ。
前を走るバンブルビー達はジグザグに逃げるが、ジャズは真っ直ぐに突っ切った。

「ひぃっ…!ジャズさん!?」

衝撃や爆音の中を走り抜けることに耐えきれず、ユラは頭を抱えて目を閉じた。
ジャズが相変わらず真っ直ぐに走っていることだけは確かに体感できるが…

『顔上げろ。当たらねぇよ。』
「は、はい…!?」
『計算してる。』
「でも怖いです!」
『慣れとけ…よ!』
「きゃぁっ…!」

立ち込める煙の中を走り抜け、ドリフトでかわしてミサイルから逃げ切る。
酷く長い時間に感じるほど、爆音が続いた。

『何のつもりだ…』

ジャズはスタースクリームが撃ってこなくなったことに疑問を感じているようだったが、ユラはむしろ安堵していた。
爆音の中で振り回されたせいか、まだ頭がぼーっとしている。

砂煙を抜けると、サム達がバンブルビーから降りてきた。
ユラは殆ど放心状態で、足元は頼りなくふらついている。

「バンブルビーはおとりになってくれ。僕とミカエラはオプティマスの元に向かう。」

ビークルでは目立ってしまう…追われているサムがオプティマスの所まで逃げ切るには、的確な判断だと思う。

「私はツインズ達と敵の攻撃を引き付けよう。成功を祈るぞ。」
「ありがとう、シモンズ…」
『俺達はやるべきことがある。あとは頼んだぜ?』

シモンズはジャズの言葉に無言で頷くと、ツインズの元へ向かう。
ジャズはユラを乗せて再び走り出した。

見せ付けるように、スタースクリームが旋回してくる。

『隠れる気は無ぇのか、あの野郎は…タトゥーだらけじゃねぇか。』
「攻撃、してきませんね…」
『気色悪いな…何か隠していやがるのか…』

砂の海をひたすら走るジャズを追ってくることも、シモンズ達を攻撃することもなく、スタースクリームは上空から様子を伺っているようだった。

『罠か…』
「えっ?罠ですか!?」
『はめられたかもしれねぇ…』

ジャズの言葉に不安にさせられるが、スタースクリームは相変わらず追ってくる様子はなく、むしろシモンズ達の方に気を取られているようにも思えた。
罠にかけるとしたら数が多い方ということなのだろうかと、何度もシモンズ達を振り返ってしまう。

「シモンズさん達、大丈夫でしょうか…」
『さぁな…わからねぇ。』
「あっ、ジャズさん…あそこ!」

見覚えのある銀色のシルエットがピラミッドの頂上付近に着地したのが見えた。
そのあとを追うようにスタースクリームもロボットモードに変形していた。

『来やがった。』





『…メガトロン様、悪い知らせです。軍がプライムを移送しました。』
『マトリックスを見付けたな。』

スタースクリームは慎重だった。
これ以上、ザ・フォールンに動きを覚られるわけにはいかないからだ。
メガトロンの声色やその些細な表情や仕草の一つとして見逃すことは許されない。
警戒すべきはザ・フォールンだけではなく、おそらく何かを覚ったであろうサウンドウェーブもだ…
彼は最高に有能な仲間だが、頭は固い。
万が一でも敵に回したときのことを考えると、その有能さは恐怖だ。

『お前はあの小僧を追え。計画のためには、何としてもプライムを復活させてはならん。』

追え…ということは、少なくとも殺すなと言うことか…
計画ということならば、謀反を企てた自分達にとって、次の言葉は逆の意味だ…

小僧をプライムの元へ誘導し、蘇らせろということか。

プライムが復活したところで、ザ・フォールンを討たせるということだろう。
折角倒した敵の大将が復活するのは癪だが、今のままでは成す術がないということか…

『…わかりました。』

言葉で悟られぬよう会話を交わし、スタースクリームが飛び去ると、メガトロンは“やるべきこと”のために動き出した。

『ディセプティコン!攻撃を開始せよ!』

戦力となる兵士は殆ど此処には連れてきていない。
今軍隊を呼び寄せたところで、所詮は全員ザ・フォールンの元で生み出されたばかりのエネルゴン不足の弱小軍団だ。
その数で視覚効果兼、時間稼ぎにはなるだろう。

見回した広大な砂の海…その視界の隅に銀色のビークルを確認した。
あのビークルに乗っているのはユラだ。

『来たか…』

大人しいはずの彼女がよくこんな“賑やか”なところに来られたものだと驚き、同時に、その事実は彼を緊張させた。

ゾクリ…と、背筋に寒気を感じる。
不愉快な感覚だ…

『我が弟子よ…』

振り返った先にいる師の姿は、禍々しいまでの負のオーラを纏っているようだった。
これは警告なのだろうか?
自分がしようとしていることがなんであるかはともかく、不穏な動きは感じているのだろう。
やはり厄介な相手だ…

『随分と虫けら一匹に執着しているようだが…』
『いえ…そのようなことは…』
『無駄な感情は、いつかお前自身の身を滅ぼすことになる。』
『余計な感情など持ち合わせてはいないつもりです。』
『今のお前は、昔のお前の顔をしている…』

地を這うように低い声が空気を震わせる。

小娘一人を生かしておいたところで、メガトロンがその小娘に気をとられたところで、今のザ・フォールンには関係ないはずだ。
現状は、隠された装置を発掘して、マトリックスを小僧から奪い取ればいいだけの状況だ。
それだけの舞台を整えておいてもまだ疑うのか…。
わざわざ出向いてまで牽制しに来たということは、企てに感付かれたということも考えられる。

実によくない状況だ…

ユラは此処に来てしまったし、泳がせておいたところで人質でしかない。
いや…人質ではなく、殺してしまうつもりなのだろう。
その方が思い通りに事を進めやすいと、ザ・フォールンはわかっているに決まっている。

(我が師よ、貴方も随分と私に執着してくれるではないか…)

砂煙の止まない砂漠を見渡し、再びユラを探した。
何か、手を考えなくては…
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