とある馴れ初めの物語

□希望の光
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夜になってしまった…

レオとシモンズは疲れきって眠ってしまったようだが、ユラは眠ることができず、星を見上げていた。

宇宙には数え切れない数の星があって、金属生命体の彼らのように、自分がまだ知らない生命体がこの宇宙の何処かに存在しているかもしれない。
何故それだけの数の星があって、互いに別々の星に生まれながら、自分達はこの星で出会うことになってしまったのだろう。
それも、彼らは侵略する者として、自分達はそれに立ち向かう者としてだ…。
もっと他の出会い方はできなかったのだろうか?
むしろ、彼に出会わなければ…

「だめだ…」

そんなことばかり考えてしまう。
もし最初から彼に出会っていなければ、こんなにも心が掻き乱されることなどなかったはずだ。
命を狙われることも、命がけで行動する必要もなく、おそらく毎日が平穏で、いつもどおりで、諦めや妥協に満ちていて、つまらなかったかもしれない…

自分はすっかり変わってしまったなと、小さく溜め息を付いた。

メガトロンのような存在に、今まで出会ったことがなかった。
どんな手段を使っても自分の意思を貫こうとする彼は、本来なら苦手なタイプのはずだ。
しかし、そんな彼の仮面のような部分に、そこに隠された弱さのようなものに気が付いてしまった。
自分を偽り、もがいて、足掻いて、何かにすがり付くようなその姿に、もしかしたら自分はもっと早く気が付いていたのかもしれない。


“俺を拒絶するな”


そんなメガトロンの言葉が頭をよぎると同時に、熱いものが胸を満たしていく。
あれが、己を偽りきれずに見せてしまった、メガトロンの本音なのだろうと思う。
彼にとっては長い年月の内の一瞬…その一瞬の気の緩みでしかないのかも知れないが、自分はどうしようもないほど彼を愛してしまったようだ…


「みんな起きて!わかったんだ!」

サムの声に驚き、我に返る。
そして、目に溜まっていた涙を拭い、振り返った。

天文学の教科書47ページ…それが何を意味するのかはわからなかったが、サムは空を指して説明を始めた。

オリオン座のベルト、それと同じ配置のピラミッド…それらが三人の王で、そして、彼らが指し示すのが扉…

「向こうはヨルダン…ペトラだな…」

シモンズの言葉に、また国を跨ぐのかと、小さくため息をついた。
バリケードに誘拐されてから、目が回るほどの展開が何度も待ち受けていた。
もう驚きもしなくなっているが、目が冴えている割に疲れきっているからなのかもしれない。

「扉っていうのは、ペトラ遺跡…ですか?」
「そのようだ。」
「バンブルビー!」

行き先が決まった。
ビークルモードのバンブルビー達にそれぞれ乗り込むと、目的に向かって走り出す。
ユラもジャズに乗り込み、ぼんやりと窓の外を見つめて小さく溜め息を吐いた。

もうすぐだ…もうすぐ全てが終わる。

『大丈夫か?お前また寝てないだろ?』

ジャズは、また思い詰めた様子のユラにそう声をかけた。

「眠れなくて…」
『少し休め。焦ったって、走るのは俺だ。』
「…はい。」

ユラはそう返事をしたものの、眠れるわけもないと思った。
もうすぐ訪れる結末は、ユラにとって幸せなものとは限らない。
むしろ、そうでない結果になる可能性の方が大きい。
そんな彼女に中途半端に優しい言葉をかけてやることもできず、ジャズは悔しい思いをただ噛み締める。

「ジャズさん…」
『なんだ?』
「ありがとうございます。」
『なんだよ、急に…』
「私一人じゃ、きっと、諦めるしかなかったから…」
『…』
「後悔は、したくないから…」

ユラの瞳の奥に見えた決意。

きっと、どんなに激しい戦闘が始まってしまっても、ユラは自分の元へは戻っては来ないだろう…そう思う。
ジャズと居れば、どうあがいても危険な場所からは離されてしまうとわかっているはずだ。
そして、その危険な場所にこそ、メガトロンがいることも…。

『それは遺言じゃねぇよな?』
「死ぬつもりは、ないですけど…」
『無いけどなんだ?』
「…」
『…ユラ、死ぬなよ。』
「がっ、頑張ります…!」
『はっ…なんだよ、そりゃ。』

また緊張してしまったらしいユラの様子に、思わず苦笑してしまった。

『傷付く覚悟は必要だが、戦場で死ぬ覚悟をしたら終わりだ。死ぬ方が手っ取り早いんだから、あっという間だぜ?』
「そっ、そう…なんですねっ…」
『俺がど真ん中まで連れてってやるよ。』
「ジャズさんっ…!」
『だから…行ってこい。』
「はい!」

ジャズの言葉に、ユラは力強く返事をした。





=to be continued
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