とある馴れ初めの物語

□決意
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スタースクリームは考え事をしながら高見の見物を決め込んでいた。

オートボットと人間たちを泳がせているが、マトリックスを手に入れれば装置を起動させられるだけではない。
“いけ好かないジジイ”が権力を我が物顔で振りかざすことになるのだ。

『さて、どうするかな…』

ザ・フォールンがユラを邪魔者と見なしているのは計算外だった。
たかが小娘と放っておかれるものとばかり思っていたが、メガトロンが余計な感情を持つことを恐れて始末しようとしているようだ。
自分がそれをしなかったことを見抜いて、敢えてメガトロンと直接関わりのない者に始末を命じたのだとサウンドウェーブから聞いた。

(小娘一人に躍らされているのは、ザ・フォールンも同じだな…)

なんのことはない、ユラという人間は本当にただの民間人でしかないのだ。
そんな小娘一匹に執着するメガトロンと、引き離そうと躍起になるザ・フォールン。
振り回される自分達。

滑稽だ。何もかもが…

『何を企んでいる?』
『メガトロン様!企んでいるだなんて滅相もない!』
『…』

企てるならもっと巧くやると、内心では思っているはずだ。
メガトロンはよくわかっている。
わかっているからこそ、こんなスタースクリームを信頼するのだから。

『どうするおつもりです?』
『なんのことだ?』

折角捕まえた獲物を、メガトロンはなぜ逃がしたのか…
それは、ザ・フォールンの目を欺くためかもしれない。

『まだ泳がせますか?』
『放っておけ。』

きっと、すべてが終わるまでは自らの側に置かないことが安全と考えたのだ。
敢えて興味を無くしたふりをして、危険の中に置いておくことが最善と考えたのだろう。
メガトロンらしいといえば、そうなのかもしれない。

『片が付いたら、どうなさるおつもりで?場合によっては…』
『何が言いたい?』

言いたいことはわかっているはずだ。
最後まで言わせようというのだろうか?
それは、彼自身が怖じ気づいているということなのだろうか?
だとすれば、面白いこともあるものだと内心笑ってしまった。

『失う覚悟はできておられるようだ…』
『お前はわかっているとばかり思っていたが…』
『は、はい…?』

メガトロンの表情が、ほんの少しだが和らいだような気がした。
感情を圧し殺すことを忘れてしまったように…

『メガトロン様、随分と清々しい表情をしておいでだ…』
『お前は失う覚悟と言ったな。』
『はい…』
『上等だ。』
『えっ?メ、メガトロン様?何を…』
『笑いたければ笑え。』

ああ、そういうことか、と、やっと理解ができた。
だから自分はこの男についていくのではないか。
掃いて棄てるほどいるようなボスになら、ただ冷徹なだけの退屈なボスにならついていく価値がないと嘲笑っていたというのに…それを忘れていたようだ。

『貴様、芝居は得意だな。』
『ええもちろんですとも…!』

このボスは、師である存在に謀反を起こそうとしている。
面白いことになりそうではないか!

『勘づかれるな。命令に従え…』
『メガトロン様は…』
『やるべきことをやる。行け。』
『は!』

そうして、スタースクリームは空へと舞い上がった。

メガトロンはその姿を見送り、やれやれだと溜め息を一つ排気した。

『俺は、随分と世話の焼ける指揮官のようだ…』





=to be continued
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