とある馴れ初めの物語

□決意
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「痛い…」

気が付いたら先ほどまでいた場所とはまったく別の場所で、辺りは見渡す限り砂の海だ…
ユラは尻餅をついた状態のジェットファイアの側で、何が起こったかわからず周りをキョロキョロと見回していた。

「ジェットファイアさん…大丈夫ですか?」
『クソ!いまいましい…エネルギー不足だ…!同じ星にいるだけ上出来だな…』
「きゃっ!?」
『クソ!痛ぇじゃねえか!』

ユラの頭上から、遅れて超小型のディセプティコンが落下してきたのをジャズがキャッチした。

『ユラ大丈夫か?おい爺さん!此処はどこなんだ!?』
『スペースブリッジを開くと言ったろ!』
『言ってねぇよ!』
『エジプトへの近道だ!』
「エジプト!?」
『えぇい!やかましい!情報は与えただろうが!』

ジェットファイアはその場で苛立った様子で足踏みをしたかと思えば、エネルギー不足のせいで立っていることがつらくなったらしく、座り込んでしまった。

「なんでエジプトなんだ?」
『何千年も前のことだが…我々の先祖は我が種族のエネルギーの源である“エネルゴン”を探し求めていた…それがないと我々は錆び付き死んでしまう。分解して死んでゆく気持ちが貴様らにわかるのか!?』
『落ち着けってだから!』
「断片的にじゃなく順を追って話せ!詳細に!簡潔にだ!」

苛立ったジャズとシモンズに愚痴を止められ、少し落ち着きを取り戻したらしいジェットファイアはやっとまともに説明を始めた。

この砂漠のどこかに、彼らの先祖が太陽を破壊してエネルゴンを集めるための装置を作った。
リーダーである7体のプライム達が収穫に向かったが、彼らには“生命の存在する星は破壊しない”というルールがあった。
しかし、そのルールを破る者がいた。
それがザ・フォールンだったのだ。

ザ・フォールンはルールを無視し、人類を滅ぼそうとした。
装置の起動には鍵となる“リーダーのマトリックス”が必要で、マトリックスをめぐって争いが起きてしまった。
ザ・フォールンは他の兄弟たちよりも強かったために、プライム達は自らを犠牲にしてマトリックスを封印するしかなかったというのだ。
その封印の場所は、誰にもわからないが…

『ザ・フォールンは、この砂漠の何処かに眠る装置の在処を知っている。奴に鍵を渡せばお前達の世界は滅びてしまう。プライムだけが奴を止めることができるが…』
「オプティマス…」
『何?小僧、プライムに会ったのか?』

サムの言葉にジェットファイアは目を丸くし、顔をうんと近付けた。

『いや、子孫だろうな…彼は地球にいるのか?』

目を輝かせる彼に、サムは重い口を開き、自らのために犠牲になってしまったことを告げた。
プライムがいなければ成す術はないと、今この瞬間まで溌剌としていたジェットファイアが絶望的な顔になってしまった。

「待って、その鍵のエネルギーで、オプティマスが生き返ったりしないかな?」

そんなサムの言葉に、ジェットファイアは『そういう使い方はない』と前置きこそしたものの、『鍵のもつパワーは偉大なものである』と告げた。
望みはあるかもしれない…きっと、彼もそれを信じるのだろう。
信じられなくても、賭けるしかない。

『頭の中にある地図をたどれ。砂に書いたあの言葉がヒントだ、“暁がダガーの剣先を照らすとき、三人の王が扉を示す”!さぁ、扉を探すのだ!行け!私の任務を引き継ぎ、奴らが気づく前に…!』

再び座り込んでしまったジェットファイアを振り返れば、彼はユラに向かって片手で『早く行け』とジェスチャーをした。

「あのっ、ありがとうございました。」
『礼などかまわん。私も後を追う。』
「えっ?あ、あの、無理はなさらないでください…」
『ただの老い耄れと思うな!小娘が!』
「でもっ…」
『馬鹿にするでないわ!引き際はわきまえている!』
「…」
『早く行け…任務を遂行しろ。』
「はい…!」

ジャズの方へと走るユラを見送ると、ジェットファイアは錆び付いた体を横たえ、古くなって喉に絡んでいたオイルを吐き出した。

もしも、マトリックスがザ・フォールンの手に渡ったりしたら…
マトリックスでオプティマス・プライムが蘇らなければ…

『少しばかり老い耄れちゃあいるが簡単には死なんさ…プライムの勇姿を、この目に焼き付けるまではな…』

岩の上にその巨体を横たえ、来るべき時が来るまではエネルギーを温存しておくことにした。
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