とある馴れ初めの物語
□攻撃開始
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メガトロンはビルのヘリポートに着地した。
スタースクリームも、オプティマスに切断された腕を持って着地する。
プライムは死んだ。
師の計画を妨害できる者はもういない。
『ガキを見失いました…オートボットに妨害されて…!』
『貴様ッ…!虫けら一匹でさえ潰すことができないのか!?』
怒りのままにスタースクリームを叩きつけ、ヘリポートの隅に蹴り飛ばし、千切れた腕をその胸に叩き付けてやった。
その怒りは、しくじったスタースクリームに対するもののはずだ。
胸の奥底から沸き上がる、もやもやとした感情を振り払うためではないはずだ。
だがどうだろう?ユラが口にした拒絶の言葉が、錆び付いたナイフのように胸にずっしりと突き刺さっていて、引き抜くことすら許されず、不愉快な痛みと息苦しさを引き起こしている…
拒絶されることなど、覚悟はできていたはずだ。
否、そのような覚悟など必要としないはずだった。
邪魔になるなら忘れてしまえばいい筈なのに、忘れることを躊躇ってしまう。
感情の抑え方がわからなくなっている。
『メガトロン様…?』
虫けら一匹を潰せなかったのは誰だ…
情にほだされるなど…兵士達に示しがつかない…
どうしたら抑えられる?
どうしたら忘れられる?
この感情は、いったい何処にぶつければいい…?
『…人間どもに奴を探し出させるのだ。』
『はっ…』
『世界に我々の存在をしらせよ!身を隠すのはもうやめる…情けは無用だ!』
やり場のない感情を振り払うように叫んだ。
『我が師が…地球に来る時がやってきたのだ…』
『仰せのままに…マイロード…』
叫んでもまだ、胸の中で暴れているようだった。
こんなにも制御ができなくなったことは、今までなかったはずだ。
余計なことばかりが頭をよぎって思考の邪魔をする…
もう、引き返すことはできない。
しかし、自ら下した判断に、頭の中では警鐘が鳴り響いていた。
『間もなくだ…計画は実行される。』
『その通りでございますメガトロン様。』
実行すれば人類は滅びる。
同時に、この感情も滅びてしまえばいい。
煩わしいものが無くなれば、スパークが凍るほど冷酷になれるはずだ…
『…』
スタースクリームの目の前には、冷徹なディセプティコンの姿があった。
しかしそれは見ていて痛々しいものだ。
嘗て自分が見ていた彼の姿は、このような自暴自棄なものだっただろうか?
完全無欠…しかし実は情に脆い…反吐が出るほど誰かに似ている…そんなメガトロンをいつか出し抜いてやろうと思ったことは鮮明に覚えているし、今だってそうだ。
自分の方が狡猾で、自分の方が残酷になれるはずだと思っていた。
だが己を壊してまで残酷になろうとするメガトロンに、内心で白旗を振った。
自己犠牲的で、自らがシンボルとなることで仲間を惹き付け、信頼させ、士気を上げさせる。
彼についていけば大丈夫だと思い込まされてしまう。
自分もそう思った一人だが…
『…(しかし、自由ってやつはないのかねえ…)』
種族の存続のため…愛する者まで滅ぼすことを選んだメガトロンに、自分には到底無理な芸当だと溜め息を一つ排気した。