とある馴れ初めの物語
□bad
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車とスタースクリームが上の階にいるせいで、ユラの位置からはよく見えなかったが、車から出されたのはサムたちだった。
サムはあの時もキューブを持っていたらしいし、今回も何か重要なものを持っているのかもしれないと思う。
だとすれば、それは確実にメガトロン達には渡してはいけないもののはずだ。
『こっちへ来い、小僧。』
あの、獣のようなうなり声がメガトロンから聞こえた。
前にも聞いたことがあるが…これはメガトロンが怒っている時や、感情が高ぶったときに鳴らす癖のようなものなのだろうか?
これを聞くと背筋が凍るような気がする。
「言うとおりにするよ。だから乱暴はよせ…」
『黙れ!』
怯えながらも少しずつ階段を降りて近づいてくるサムに痺れを切らし、メガトロンはまだ階段の途中にいたサムを払い落とした。
元々は何かを設置してあったらしいコンクリートの土台に、サムは強かに背中を打ち付ける。
そして苦しみもがくサムにメガトロンが詰め寄り、巨大な手で押さえつけた。
『お前を、ゆっくりと苦しめてから殺してやる…』
冷たく、静かに吐き出されたその言葉には、深い怒りが込められていた。
メガトロンを止めたくても、ここから逃げ出そうにも、足がすくんで動けなくなってしまう。
敵意と攻撃的な一面を剥き出しにしているメガトロンは、さっきまでの彼とはまるで別の誰かのようだ。
『その前に手のかかる仕事がある…。ドクター。』
メガトロンの足元から、顕微鏡に擬態していたドクターがサムの上に這い上がっていった。
何やら調べ始めたかと思えば、今度はサムの体から何かのデータを取り出し写し出す。
よくわからない文字のようなものと、サムの記憶らしい映像…ブツブツと呟きながらそれを見ていたドクターが、高らかに叫んだ。
『こいつの脳ミソを取り出してテーブルに乗せる!』
一瞬自分の耳を疑ったが、どうやら彼は本気らしい。
回転カッターをサムの頭に近付けている…
「だっ、だめ…!だめです!」
咄嗟のことで、考える前に体が動いていた。
気が付いたら小さなドクターを抱き上げ、羽交い締めにしていた。
捕まっている本人は予想だにしない出来事だったらしく、固まって大きな目を点滅(瞬き?)させている。
「ユラ…!」
『…?…?』
「…メ、メガトロンさん…!サムを離してくださいっ…ひ、ひゃあっ!?」
また、豪快に天井を破壊し、オプティマスが突入してきた。
バンブルビーも一緒だ。
「ユラ!こっちへ!」
奇襲のおかげで解放されたサムがこちらに叫んでいる。
このままサム達と逃げればいい。
それなのに、オプティマスと戦闘を始めたメガトロンを振り返ってしまった。
彼はサムを殺すつもりだった。
恐らくそのことを『何を見ても』自分を拒絶するなと言っていたのだろうと思う。
拒否権を与えないと言っていた筈なのに、そんなことを言う必要があったのだろうか?
考えすぎかもしれないが、最後の言葉は寧ろ、すがりつくように聞こえた。
「ユラ!早く!」
何故、自分を捕らえてあれだけのことを言っておきながら拘束しないのだろうか…
拘束しておけば、彼らの力を使って押さえ付けておけば、逃げることなどできはしない。
なぜそれをしなかったのか…
「急いで!何やってるんだ!」
「う、うんっ…」
次から次へとわからないことが湧いてくるが、今はサム達と一緒に逃げることにした。