とある馴れ初めの物語

□誘拐
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キュルル…ザザッ…



捕まってから、ずっと電子音のようなものが鳴り響いている。
仲間と通信を行っている音だろうか?
自分は何処へ連れていかれるのか、それは何のためなのか、不安で仕方がなかったが、このディセプティコンはユラに危害を加えてくる様子はない。

名前を呼ばれたことで、確実に自分を狙っていたことはわかったが、今回もやはり理由は不明だ。

『クソが…』

独り言のように呟かれた言葉だが、これは英語だった。

『ユラと言ったな…貴様のことは調べさせてもらった。なんの特徴もないただの東洋人だな。』
「…」
『スタースクリームが言うような価値など無いように見えるが、貴様は何者だ?』
「私は…ただの一般市民で…その、何者って言われても…私にも…きゃあぁっ!?うっ!!」

急ブレーキをかけられたかと思えば、彼が突然変形を始めたせいで空中に放り出され、更に空中で体を掴まれたせいで息が詰まった。

『生きてるか?』
「な、なん…とか…」
『うっかり握りつぶしたかと思った。』
「…!?」
『本当にこいつでいいんだろうな?』
「あぅっ!?」

パトカーのディセプティコンは、ユラを地面に放り投げた。
それで死ぬようなことはないが、元々が荒っぽい性格なのかもしれない。

『もっと丁寧に扱え。』
「ひっ!?」

見たことのあるシルエットがよろよろと立ち上がるユラを見下ろし、そして掴み上げた。
特徴的な背中の羽と、なんとなくだがずる賢そうな雰囲気をもったディセプティコン…メガトロンと一緒にいるところを見たことがある。
スタースクリームだ。

『その虫けら一匹の利用価値ってのはなんだ?どれだけ調べても何も出てこない、掃いて棄てる程いる民間人でしかない。』
『お前にはわからんさ。だが、お気に入りなんだと。』
『言いたくないが、悪趣味だ。まだガキだぞ?』
『悪趣味か。俺もこのガキに魅力があるようには思えんしな。体も貧相だし、頭も悪そうだ。』
『簡単に連れ出せたしな。』
『だが、メガトロン様がわざわざ俺にこいつを殺すなと言っていた。』

言いたい放題の二人に少しだけ心が傷ついたような気がしたが、聞き覚えのある名前にハッとした。
スタースクリームは確かにメガトロンと言った。
メガトロンは死んだはずだが…まさか生きていたというのだろうか?
夢に見た時と同じ何かが、胸の奥にくすぶり出した。

『で、どうするつもりだ?まさか謀反か?』
『人聞きの悪いことを言うな、バリケード。ボスのご機嫌とりにこいつを使う。』
『だといいが。あとは勝手にやってくれ。』
『なんだ?逃げるのか?』
『みくびってくれるな。』

スタースクリームはその赤い目を細め、バリケードを訝しげに睨み付けていた。

『俺が選んだボスはあの爺さんじゃない。』
『逃げられる奴はいいよな、楽で。』
『アンタみたいに、へりくだってすがり付くような地位も無いんでね。』
「…!」

スタースクリームが突然バリケードの首を掴み上げた。
ギリギリと、金属の擦れあう不愉快な音が響く。
もう片方の手に握られたままのユラは、生きた心地がしなかった。

『すがり付けば手に入る程度の価値しかないというなら、こんな立ち位置などくれてやる。』
『手を離してくれ。都合の良い“情報屋”が居なくて困るのはアンタだろ?』
『生かしてやってるのは俺だ。とどめを刺して欲しかったのか?』
『下半身が廃棄処分されなかったことは感謝するよ。』
『フンッ…いけ好かんジジイの世話だろうが何でもやってやるさ。生きていくためだ。そのためならボスだろうが利用してやる。』
『つまりそのガキは人質か?』

スタースクリームは何も答えることなくバリケードから手を離したが、その表情はユラからは見えなかった。

『誰が人質だかな…』

呟いた声は、呆れるような、自嘲しているような感じがした。
生きていくためだと言っていたが、初めて見たときとは少し雰囲気が違うというか…ユラには事情がよくわからないが、苦しんでいるのはわかりやすいほどだった。

『気が向いたら“リハビリ”に行ってやる。』

バリケードはまたパトカーの姿に戻ると、来た道を引き返していった。
ユラはスタースクリームの手の中に取り残され、逃げることもできず、もがくことさえ忘れていた。
どうすることもできずに一部始終を聞いてしまったが、メガトロンの他にも、逆らえない大きな存在があるようだ。
オプティマスたちに伝えなくては…
しかし…

『何度も寝首を掻いてやろうと思ったが、復活したと聞くと安堵するのはおかしなもんだな…』
「…」
『貴様にもついてきてもらうぞ。』
「えっ?は、はい…」
『なっ…貴様話せるのか!?』

どうやら独り言のつもりだったようだ。
ユラが口を利いたことに驚いた様子で、手をワナワナさせている。

『今聞いたことは言うなよ!』
「えっ…」
『言うなよ!誰にも!』
「は、はい…あ、でも、あの…」
『なんだ?』
「メッ…メガトロンさんは…その…生きてたんでしょうか…?」
『“復活”したんだよ!目の前で死んだだろ!』
「ごっ、ごめんなさい…」

噛みつくような勢いに気圧され、逃げられないうちは黙っておくことにした。
スタースクリームは何やら『面倒』だの『板挟み』だのとブツブツ呟いている…
隙を見て逃げ出したいところだが、しっかりとその手に捕まえられているし、誰かに連絡を取ろうにもスマートフォンは足元に転がったバッグの中だ。

「きゃああっ!?」

スタースクリームが変形しながらユラをコックピットに放り込んだせいで、本日何度目かわからない悲鳴をあげてしまった。
しかし、その直後には体にかかるGで悲鳴をあげることもできなくなった。
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