とある馴れ初めの物語
□誘拐
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=ユラ視点=
今日は珍しくジャズが遅い。
いつもなら門の前で待っているはずだが…
「今日は一人?」
「えっ?」
最近よく話しかけてくる同級生だ。
いつもならジャズがいるのを見て、適当な挨拶だけして別れるのだが…今日に限ってはジャズがいない。
あまり男性と話をするのは得意ではないし、特に彼のようなタイプは苦手だ。
できれば今すぐこの場からいなくなりたいのだが…
「いつもの車、彼氏?」
「え…あ、えーと…と、友達…」
「友達が毎日送り迎えする?」
「でも…ほんとに…」
「今日は喧嘩でもした?まさかフラれたとか?」
「そ、そういう…わけじゃ…」
「電話すれば良いのに、しないってことはそうなんじゃないの?」
「うーん…」
「図星だろ。家どこ?送るよ?」
「だ、大丈夫だからっ…」
「いいから素直に甘え…」
ちゃっかりユラの腕をつかんだまま、まだ何か言いかけたようだが、急におとなしくなってしまった。
何事かと振り返ると、視線の先には一台のパトカーが停まっている。
どうやら中にいる人物はこちらを見ているし、無理矢理連れていこうとしているところを見られて、しまったと思ったのだろう。
もう一度彼を見上げると、ばつが悪そうに「無理にとは言わないけどさ…」とだけ言って後退りしていった。
「ふう…(助かった…)」
『お前がユラだな。』
「えっ…?っ…!?」
背後からの声に振り返る間もなく、大声をあげることすらできず、車の中に引きずり込まれてしまった。
「なっ、何するんですか…!?」
運転席にはさっきの警察官の姿があったが、単なるホログラムのそれはすぐに姿を消した。
まずい…
すぐにそう思い、逃げ出そうとするが、シートベルトで体をきつく固定されてしまった。
身動きがとれず、自力では外すことさえできずにもがいているうちに、パトカーのディセプティコンは急発進した。
「い…嫌っ…!離してっ…!」
暴れて声を上げても解放されるはずもなく、せめて誰かに連絡がとれればなんとかなるかもしれないと思いスマートフォンを探す。
足元に転がったバッグを取ろうと、脚を使って引き寄せた。
焦って上手くいかないが、腕を拘束されているわけではないし、手が届きさえすればスマートフォンはバッグの中だ。
「…(お願い…届いて…)あっ…!」
足元から金属のアームのようなものが伸びてくると、ゆっくりと見せつけるようにして、バッグをシートの下に引き込んでいった。
バッグは見えるところに引っ掛かっているが、脚を使って引っ張り出すことができない。
「…(ジャズさん…!助けて…!)」
最後の手段と思いドアを開けようとしたが、どうやら内側からは開かなくなっているらしい。
「そんな…」
一切の抵抗が通じないだけではなく、彼のビークルがパトカーなだけに、サイレンを鳴らしさえすればまっすぐ走っても勝手に道が開けていく。
このままでは、助けが来るまでに逃げ切られてしまう…
『馬鹿な生き物共だ。』
彼は周囲の反応に嘲笑し、大通りを堂々と走り抜けた。