とある馴れ初めの物語

□長い序章
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=ジャズ視点=


ユラというらしいこの人間は、「無口だった」とサムから聞いていた。
実際はジャズの予想通り、彼女の生まれた国は言語が異なるらしく、ほとんど通じていなかったのだ。
通じあえる相手もおらず、ただただ危険に巻き込まれて怖かっただろうと思う。
しかし、そんなユラを“護る”ために、自由を奪ってしまう形となってしまった。
塞ぎこむ彼女にかける最適な言葉は思い付かないし、何が通じるのかもわからない。
その上ふとした一言でユラにあからさまに拒絶されてしまい、此方も少しきつい言い方になってしまった。
(実際は“please”が出てこなかったがためにニュアンスがきつくなった。)

自分が言い出したことでユラを傷つけることになってしまっただけでなく、より深く傷をつけたようで、かわいそうなことをしてしまったと後悔した。
しかし、またディセプティコンに狙われては困る。
護らなければいけない存在であることは確かだ。

『なぁ…乗らないのか?』
「…」
『何て言えば通じる?』
「…」
『おい、頼むぜ…沈黙は苦手だ…』
「私は…」

ユラの言葉はよくわからなかったが、彼女の不安や恐怖が犇々と伝わるようだった。
おそらく、また拒絶の言葉なのだろうと思う。
しかし護ってやると決めた以上、ディセプティコンがまたユラに接触する可能性があるからには、拒絶されても退くわけにはいかなかった。

『…心配するな。俺がお前を守ってやる。』

そう告げると、ユラは目を丸くして驚いていた。
取り敢えず、今の言葉は通じたのかもしれない。

『だから何も心配するな。言葉が通じなくてつらいだろうが、そんなもの、なんとかなるだろ?』
「…」
『ほら、乗れよ。』

ユラは目に涙を溜めて浅く頷いた。
ドアを開けてやれば大人しく乗り込んで、今度は声をあげて泣き出した。

『おう、泣け泣け。好きなだけ泣きやがれ。』

今泣いたところで誰も見てはいない。
抱き締めてやったり背中を撫でてやることができないのが残念だが、今は思い切り泣かせてやることにした。





=to be continued
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