とある馴れ初めの物語

□長い序章
2ページ/6ページ

とんだ災難だったが、黒ずくめの彼らは悪い人たちではなかったようで、ひとまず安心した。
それに、彼らによって連れてこられた先で、自分と同じく連れてこられていた一般人らしき数人と合流できた。
言葉が通じる相手は相変わらずいなさそうだし、一般人に対してやたらと高圧的な男性がいるようだが…

「あっ…」

日本を発つ前に写真で見た少年もそこにいる。
「誰?」という雰囲気だけ察したので名前を名乗ったものの、困ったことに彼の名前が聞き取れない…

「うぃ、うぃきてぃー?うぃうぃっ…?えぇと…」
「call me sam…」
「さむ…」

呆れられたと思ったが、「気にしないで」と言われたのはなんとなくわかった。
おそらく、発音しにくい名前か、よく間違えられる名前なのだろう。

言葉がわからないままだが、あれよあれよという間に移動させられ、ゾロゾロとみんな揃って連れていかれるところに自分もついていく。
一般人がいるというだけで少し安心できたし、女の子もいるのはどこか心強い気もした。





「すっ…すごい…」

連れてこられたその先では、映画でしか観たことのない広く機械的な空間が広がっていた。
何かの研究所のように防護服の人間がウロウロしていて、その中心に、自分が遭遇したロボットよりも、自分よりも遥かに大きな二足歩行らしいロボットの姿があった。
何故か冷凍されているが…理由はやっぱりわからない。
あれは、まさか自分が出会ったロボットの仲間なのだろうか?
小さいものでもあれだけ狂暴なら、これだけの大きさになれば…考えるとゾッとする。

「…Megatron………」

サムが何か捲し立てる台詞の中に、聞き覚えのある単語が聞こえた。

「メガ、トロン…メガトロン!?これが!?」

思わず大声が出てしまったために、注目を浴びてしまった。
自分がとんでもなく恐ろしいことに巻き込まれようとしていたことに、否、既に巻き込まれているのだと自覚した。

「Do you know him…?」

サムにそう聞かれ、震えを堪えて頷いた。
どうして知っているかなどの説明ができないのがもどかしい…
ユラが何も言わなかったため諦めたのか、サムは先程の話の続きを始めたようだった。

あの小型ロボットの秘密が明らかになっているような気がするが、いかんせん言葉が理解できないがために不安でしかない。
というか、聞き取れたらもっと不安にさせられるような気がしてならない。
サムたちの険しい表情を見れば、良くない事態なのだということだけは嫌でも理解できた。

不安を膨らませながら、再び工場見学のように別の部屋に移動させられる。
そこではまた別の巨大な何かを研究している様子をガラス越しに見ることができた。

“キューブ”

その単語は聞き取れた。
確かに、巨大な四角い物体だ。

そして何かのエネルギーがどうのという話をしている気がするが、あの四角いキューブがエネルギーを発しているとか、貯蔵しているとか…そういうことなのだろうか?
疑問ばかりで頭はパンク寸前だったが、此処でやっと、ユラはあのロボットが如何にして生まれたのかを知った。

先ほどから少し嫌みっぽい話し方をする男性が箱の中に携帯を入れ、謎のエネルギー(?)を放射する。
するとどうだろう…携帯が突如として変形し、甲殻類のようなロボットになった。
喋りこそしなかったが、強化ガラスに向けて発砲している。
その姿は自分が出会った謎のロボットと酷似していた。

まるで命を吹き込まれたように、いや、生きている。
そんな風にしか見えなかった。
自らの意思をもって動いているその小さな“何か”は、自分を取り囲む大きな未知の生命体であるユラたちに怯えたのか、銃器を乱射したり体当たりをしたりと暴れまわる…

『キキキ…ギャー…!』
「えっ!?」

生まれたばかりの小さな生命は、あっという間に丸焦げになって箱の中に転がった。
皆目の前で起きたことに驚き、言葉を失う中、手を下した本人は何事もなかったかのように平然としている。

「なんで…」

自ら命を吹き込んだばかりの小さな生命体に、何故、自ら手を下したのだろう…
何故、こんなことになるのなら、わざわざ命を与える必要があったのだろう…
何故…

答えの出ない問いかけが頭をぐるぐると駆け巡り、ユラの頬には大粒の涙が伝う。

「ひどいじゃないですか…!よ、よくわからないけど…生き物、みたいだし…まだあんなに小さいのに…!」

声を荒らげて抗議するが、リアクションはあまり無かった。
黒髪の美少女、ミカエラだけが背中を撫でて宥めてくれるが、ユラは目の前で起こったことに憤りを隠せない…
自分には何の権限もないし、言葉すら満足に通じないが、通じないながらも言葉にせずにはいられなかった。

通じないということが、これ程までに苦しいことだとは考えたこともなかった。
自分が叫んだところで何も変わらないし、何も伝えることができない。
無意味に死んでいった名前もない何かに、ただ胸を痛めて泣くことしかできなかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ