NOVEL

□泣いて縋って堕ちるまで
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早瀬浩一。

現存するマキナの中で最も異質であるラインバレルのファクター。

ファクターであるが故に身体能力は高いものの、他は至って普通の中学生だ。

そして無力だった彼は偶発的に大きな力を得たことに酔い痴れて、街を破壊した挙げ句にハグレマキナによって親友を失った。

しかし、JUDAに所属してからは力の意味や命の重さ、自分の正義の何たるかを考えるようになり、無知で未熟だった子供は世界の未来を守る正義の味方へと変貌をとげる。

勧誘するために何度か顔を合わせたが、同じ顔をしていたことは一度としてない。

下ばかりを見ていた瞳が次第に前を向くようになり、精神が強くなるにつれて顔つきも精悍になった。

頼もしく見えるようになった、と言ってもいい。

彼は私が与える試練を乗り越えることで確実に成長しているのだ。

それも驚くべき速さで。

いつもいつも私の想像を裏切る彼が興味対象から好意対象となるのにあまり時間はかからなかった。

非力で馬鹿で、そのくせ口だけは一人前で、どうしようもない奴だとわかっているのに何故か期待せずにはいられない魅力が彼にはあった。

それに魅せられた私はラインバレルだけでなく、早瀬浩一自身もこの手にしたくなったのだ。

だから、

「早瀬、私と共に来い」

望みが薄いことをわかっていながら、何度目かの勧誘を試みた。

「誰がっ…」

お前なんかに!と続くであろう拒絶の言葉を一歩踏み込んで唇で塞ぐ。

驚くほどあっさりと触れることができたそれは柔らかくて温かかった。

やがて静かに唇を離すと、頬を染めた早瀬が呆然とこちらを見つめていた。

「抵抗、しないんだな」

想像以上だ、と付け加えると、ようやく我に返った早瀬は肩を震わせて叫んだ。

「…知るかっ!」

「嫌われてしまったな」

殴りかかってくる拳をのらりくらりとかわしながら、必死に向かってくる早瀬を見下ろす。

ギラギラした翡翠の瞳がこちらをまっすぐに見つめていた。

「君はきっと私の手を取る」

「そんなこと絶対、しない」

犠牲になった人たちのためにも、と故人たちを思い出しながら苦しげに言った。

そう、それでいい。

犠牲が増えれば増えるほど逃げ道はなくなる。

逃れられない鎖に絡めとられて身動きできなくなったなら、それを断ち切りたいと思う時がくるだろう。

そして断ち切ることができるのはラインバレルでも城崎絵美でもなく、この私だ。

そのことに気付いた早瀬浩一はきっと私の手を取る。

焦がれたその瞳に私だけを映して。

私はそんな未来を想像しながら緩く口角をあげた。

さぁ、期待の正義の味方はどうやって私の想像を壊す?


泣いて縋って堕ちるまで
(私はここで待っているよ)



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