短編-死帳

□くらくら


まだ日も明るい捜査本部にて。


「月くん、ちょっといい・・・・・・あぁ、すまん。それが終わったら来てくれないか?」

「分かりました。すみません相沢さん」

「大丈夫だ。止めて悪かった」

「いえ」


相沢さんが自主的に頼みごとを一時取りやめたのは、僕が竜崎に頼まれたデータ入力を片付けている最中だったからである。

普段は松田さんにやってもらっているのだが、前回ミス入力が目立った
(後に僕と竜崎が全て修正した)のでその仕事が僕に回ってきたのだ。


たかがデータ入力、されどデータ入力。

一見簡単そうに見えるが、とても地道な作業でかなりの努力を要する。

数時間は指を動かしモニタと睨めっこ。

肩も目も疲れ、下手をすれば指がつるのではないかといういわば雑用だ。

こんな事を毎回していた松田さんに脱帽する。


「・・・・よし、終わった」

「お疲れ様です月くん」

「あぁ。そうだ、相沢さんのところに・・・」

「分かってます」


止めどなくキーを打ち続け最期の1文字を強めに打つと早速僕は相沢さんの元に行くためスッと席を立った。

後ろのほうで僕と手錠で繋がった竜崎が歩きながら捜査員に指示を出す声が聞こえる。


(疲れた・・・)


気持ちよく伸びをしたとき。

ぐらっ、と視界が歪んだ。

その気分の悪さに思わず眉を寄せ、目を閉じて手を当てる。


何かに縋りたい。

周りの声が聞こえなくなる。


じきに平衡感覚が失われ、頭がぐらぐら揺れているような錯覚に陥った
ら、



ドサッ



音がした。


それだけだった。


目の前は真っ暗。


瞬間的に周りの音も消え、僕はただ暗闇を見つめていた。

   
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