Webアンソロジー企画

□ハーフタイム・ティーン
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「だって好きな人一人のために、転科までするなんて…そんなことする必要あります?」

私は反論するように強く言い放つと、「絶対血迷ってますよ、その人」そう付け加えて、首を振った。
先輩はそんな私に、「そりゃそうかもしれないけど…」困ったように笑って、

「そんなことしてでも、傍に居たいんだから、しょうがないじゃん」

そう言いながら、先輩はふき取りシートで首筋の汗を拭い始める。
その動作がどことなく色っぽくて、自分には決してないものだと思った。この先輩だけじゃない。引退してしまったけれど、三年生の先輩たちも、そうだった。ここ最近じゃあ、同じ学年の友達ですら、時々ハッとするような顔や仕草をする。

「意味わかる?」
「ワケわっかんない」

私は大げさに肩をすくめて、首を振った。

「ミチってば、やっぱガキ」
「まぁミチですからね」
「だよね、ミチだもん」
「っていうか―――」

口々に私に向かってそう言うと、今度は互いの恋愛について話をし始めた。

これはいつものことだ。部活終わりの会話は、大体最後には恋バナになる。
私はその様子を遠目で見ながら、ため息を吐き出した。
つい数分前まで、ワクワクと高揚していた気持ちが嘘のようだった。
ガヤガヤと騒がしい部室はさっきまでと変わらない。だけど私にとっては違っていた。
わからない。つまらない。ついていけない―――沸き上がる気持ち。

私はまだ、恋をしらない。
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