本当に不可解なおとぎ話

□おやゆび姫
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おとぎ話の世界には、しばしば小さい人が登場する。
小柄な人というレベルではなく、スケールそのモノが明らか小さい人達だ。

それらは、妖精であったり特にナンの説明も無く小さかったりと、小さい理由は様々だが、共通しているのは小さい人達には、小さいなりの生活が有り、小さいなりの冒険をしている事である。

例えば、我々の生活の中で小物として存在している物を大掛かりな家具等として使っていたり、我々にとっての小動物が小さい人達にとって脅威的な怪獣だったりと、我々の周りに当り前に存在している物が、我々とは明らかに違う目線から見たシチュエーションで繰り広げられる冒険が楽しめる事が、小さい人達が活躍するおとぎ話の醍醐味であろう。


そんな小さい人達の中でも特に気の毒な体験をしたのが、アンデルセン童話に登場するおやゆび姫だ。

なにしろ、小さい事が災いして、ヒキガエルの花嫁にさせられそうになったんだから…

「させられそうになった」というだけで、実際に花嫁になった訳じゃないのに、ナンで気の毒なの?と思うかもしれない。

説明しましょう!

そもそも、いくら小さいからといっても、おやゆび姫の姿形は人間そのものである。
ヒキガエルが、明らかに別の動物である人間の縮小版に発情する事など有り得るのか?

実はコレが有りなんである!

カエルの視覚とは動く物にしか反応しない。

しかも、その判別は極めて単純で、動く物の中で自分より小さい物は獲物で、自分より大きい物は天敵と、その物が何であるか以前に「小さいヤツだ…喰え」か「大きいヤツだ…逃げろ」と本能的に判断するだけである。

さらには、カエル達は自分と同じ位の大きさの動く物は自分達の仲間と思っているようで、繁殖期になるとカエルのオス達は、メスと間違えて、同じくらいの大きさの魚に飛び付いて交尾しようとしたり、オス同士で絡み合う光景も珍しくはない。

ようするにカエルは、自分の視覚に入ってる動く物が何者か?という事を、生物である事以外ほとんど区別できていないのである。

従って、ヒキガエルがおやゆび姫を仲間のメスと勘違いして花嫁にしようとしたのも、決して荒唐無稽な話ではないという事になる。


だがこれは、おやゆび姫にとって残酷な事実である。

「ヒキガエルの花嫁にさせられそうになった」という結果は同じでも、「人間の女の子として可愛かった」のと「ヒキガエルのメスと間違えられた」では原因に差が有りすぎる。

もちろん、だからと言っておやゆび姫の容姿が、ヒキガエルに似ていたと言っている訳ではない。

ヒキガエルにしてみたら、大きさがほぼ同じという事だけが理由で、おやゆび姫を「同族」と勘違いしているので、容姿の良し悪しは無関係である。

陸上で生活する動物の中で、尻尾を持たない動物は人間とカエルくらいである。
その他、後ろ足が長い事や、指が長い事など見た目だけを見れば、意外とカエルと人間には共通点が多いのも確かである。

しかし、何と開き直ろうと「ヒキガエルと間違われた」という可能性が有る以上、彼女の心に深いコンプレックスとなってしまうかもしれない。


まぁ最終的に花の国の王子様と結婚する事になったのだが、元カレとの事を引きずっている様子は無いし、知らない方が幸せになれる事も多いから、このエッセイをおやゆび姫本人が見ない事を祈ろう。


【注釈】
↓[ヒキガエル]
両生綱無尾目ヒキガエル科に属する総称。
幼生(オタマジャクシ)から孵った時は小さく、成体になってから巨大化するカエルの中でも珍しい生態。
身体中に有るイボから毒性の有る分泌液を出す。
いわゆる「ガマの油」である。


↓[動く物にしか反応しない]
逆に言えば、自分より小さい動く物なら、何でも食ってしまうという事。
カエルは転がる石などを間違って飲み込んでしまう事がある。
その場合、胃袋をひっくり返して胃袋ごと口から吐き出す。


↓[ヒキガエルの花嫁]
おやゆび姫は、ヒキガエルと結婚する事に対して、ヒキガエルそのものも嫌だが、ヒキガエルと結婚したら沼で暮らさなければならない事を嘆いていた。
その後、お金持ちのモグラと結婚させられそうになったが、この時はモグラと結婚したら地中で暮らさなければならない事を嘆いていた。
モグラそのものは嫌ではないようだった。
やはりお金持ちという事に気持ちがグラついたのだろうか?
モグラは何処でどうやってその金を使うのだろうか?


↓[大きさがほぼ同じ]
カエルの仲間でも特に巨体なヒキガエルは、標準サイズでも手のひら位の大きさがある。
おやゆび姫が文字通り親指サイズなら、「花嫁」というよりもむしろ「エサ」と認識するハズだ。
まぁそこは心配無いだろう。
おやゆび姫が「おやゆび姫」と名付けられたのは産まれてすぐの事だ。
ニワトリを産まれたばかりの頃ヒヨコだったから、つい「ピヨちゃん」と名付けてしまうパターンと同じで、人間同様の成長率があるとすれば、結婚適齢期を迎えたおやゆび姫は「おやゆび姫」と言いながら、実は手のひらサイズはあったと考えられる。



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