本当に不可解なおとぎ話

□天空の城ラピュタ
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およそ1年間に1作品ずつ発表されるスタジオジブリ作品の中でも、特に人気の高い「天空の城ラピュタ」。

今さらストーリーについて説明の必要はあるまい。

公開から30年以上が経つが、未だにその人気は衰えることを知らず、3年に1回は地上波で放送され、その度に高視聴率を記録している。
公開されて以降、この作品を全く見ずに大人になった子供は、おそらく皆無であろう。

そんな名作ではあるが、どうしても気になって仕方がないのはクライマックスシーンである。


シータとパズーがラピュタを守るため、共に飛行石を手に取り合い、滅びの言葉「バルス」を唱え、バカ共からラピュタを守った…

この滅びの言葉は、シータが母から飛行石を受け継ぐ時、「絶対に言ってはいけない」と釘を刺されて教えられた言葉であった。

「絶対に言ってはいけない言葉」が、たった3文字で大丈夫なんだろうか?

誰かがうっかり言ってしまったりしないんだろうか?


この言葉は言うなれば鍵のようなモノだ。

鍵とは、重要な物が閉まってあればある程、より複雑な形状で簡単には開かないよう厳重にするのが普通である。

例えばピアノのけん盤を開ける鍵などは、数パターンしか無いような単純な物を使っているが、核ミサイルのボタンの入ったアタッシュ・ケースの鍵は、この世に二つと同じ物が存在しないほど複雑な上、24時間毎に変更される8桁のパスワードと、別々の場所に待機するそれぞれ4人もの人間が同時にボタンを押すなど、いわゆるイージーミス、早い話が「ついうっかり」を防ぐための工夫がこれでもかと施されている。

ラピュタにとっての「滅びの言葉」はどちらかと言えば明らかに後者であろう。
「滅びの言葉」とは、簡単に言えば自爆スイッチのようなモノだ。

想像してみて欲しい。
もし仮に、アナタの愛車に自爆スイッチを取り付ける場合、エアコンのスイッチの横や、クラクションの横にムキ出しの状態で付けるだろうか?

おそらく、ついうっかり押してしまわないような場所に、ついうっかり押してしまわないよう何らかの工夫を施して取り付けるハズである。

それをラピュタの場合は、わざわざついうっかり押してしまいやすいような場所に、ついうっかり押してしまいやすいように取り付けたようなモノなのだ。


あの物語の中ではもう一つ「我を助けよ、光よ蘇れ」という言葉が出てきた。

こちらは、私も覚えきれないほど長くて複雑な言葉だったのに、ナンでよりにもよって最も言ってはならない言葉があんなに簡単なのか?


物語の中から検証してみよう。

ラピュタを我が物にしようとしていたムスカ大佐は、「ラピュタの科学」としきりに言っていた。

つまり、あの言葉は呪文やマジナイの類いでは無く、科学技術を駆使したある種の音声認識システムのような物と考えられるのだ。

ナ〜ルホド!
だからシータが何気に言った「我を助けよ…」にも強烈に反応していた訳だ!

しかし、だったらなおさら危険ではないか?

別に大意は無くとも、言葉さえ正確なら本人の意志とは無関係に作動するという事じゃないか!


飛行石の音声認識システムはどの程度の正確さなんだろうか?

ちょっとこんなシーンを思い出して頂きたい。

クライマックスシーンで、シータとパズーが「滅びの言葉」を唱える前に、シータからパズーへとその言葉は教えられていた。

その描写は明確には描かれてはいなかったが、おそらく耳打ちしたモノと思われる。

シータだって、母から受け継がれる際に、その言葉を母が言ったハズだが、別に何も起こった様子は無かった。

おそらくシータの母は、飛行石は暖炉にしまっておいた上でシータに教えたから何も起きなかった。

この二つのやり取りで明らかになった事とは、たとえ滅びの言葉を誤って言ってしまったとしても、「飛行石に聞こえなければセーフ」という事を暗に語っているという事だ。


そして、もう一つ明らかになった事がある。

飛行石の音声認識システムの感度はそれほど良くはないという事だ。

すぐ近くで聞いていても、ヒソヒソ話をされたら聞こえない程度だ。
多分、人間の聴力くらいの感度しか無いと思われる。

な〜んだ!だったらとりあえず安心じゃないか!
人間に聞こえないくらいの声でささやけば飛行石にも聞こえないって事じゃん!
よかったよかった…

…などと胸を撫で下ろしている場合ではない!

人間の聴力と同じくらいという事は、人間と同じくらい聞き間違いを起こすという事じゃないか!
しかも情報源は自分が聞こえた音だけ!
つまり、その情報が正しいかどうかをそれ以上の方法で判断できないという事なのだ!

そのため、本人には言ったつもりが無くても、飛行石の方が一方的に聞き間違ってしまう可能性も無いとは言いきれない。

本人には「バルス」と言ったつもりなど毛頭無くとも、飛行石に「バルス」と聞こえたならどうしようもないという事だ。

そこに人の意思が入れば、事が事だけに「今のマジ?」と疑う余地が有るが、システムではそうはいかない。
意識の無いシステムはプログラム通りに命令を遂行するだけである。

長いラピュタ人の歴史で、正統な王位継承者の中にはきっとカツゼツの悪い人もいただろうから、その度にラピュタは滅亡の危機に見舞われていた可能性もあったのだ。

飛行石を持つ王のカツゼツ一つが王国の運命を左右するのだ。


もしかして最初にラピュタが滅んだ原因はソレだったんじゃないか?

もちろん、なぜ滅んだかは劇中では結局謎のままだった。

シータは、ラピュタの滅んだ理由について、なにやらムツカシイ分析をしていたようだが、もっと単純に考えれば「王のカツゼツの悪さ」の可能性が高い事が解る。

シータの話を、苦虫を噛み潰したような顔で聞いていたムスカ大佐は「ラピュタは滅びぬ!」などと激高していたが、コチラの理由を知っても同じ事が言えただろうか?

さすがの冷徹なムスカ大佐も、納得せざる得ないのではないだろうか?


やはり、王国の運命を左右する「滅びの言葉」は複雑であるに越した事はない。


あえて優れている点を挙げれば、飛行石は正統な王位継承者の言葉にしか反応しない。
これが声紋認識システムのような物かどうかは解らない。

本来、システムを導入する優位性とは、複雑な作業を一括に合理的に集約して、簡単な作業にまとめる事に有る。

しかしそれは両刃の剣でもある。
どこか一ヶ所が狂っただけで、システム全体を簡単に暴走させてしまう結果になったりもする。

ラピュタはよりにもよって「国を滅ぼす」という作業を一つのシステムに集約させてしまった。

フランス革命は、刑務所の囚人の暴動から始まった。
近年のアラブ諸国に民主化をもたらしたアラブの春は、フェイスブックに投稿された一本の動画から始まった。

いずれも、小さな火種から始まり、やがて国家を破滅させる革命へと発展させていった。
国が滅びる過程には「大風が吹けば桶屋が喜ぶ」的な長い時間と複雑なプロセスが必要なのである。
それをラピュタは、国家の命運を一つのシステムに集約させてしまった訳だ。


どんなに優れたシステムでも、どんなに技術が進歩しようとも、誤作動を起こす可能性はゼロにはできない。
だから機械は、100%は信頼はできないのだ。


現代人にしろラピュタ人にしろ、「便利だから」などと軽はずみにシステムを採用して、結局制御しきれなくなって、自らの首を絞める姿はあまり変わらないんだなぁ…


ラピュタ王よ…
もし「滅びの言葉」が、どうしても「バルス」でなければならないならば、せめて「前言取り消しの言葉」などを作っておく事をオススメする。

【注釈】
↓[スタジオジブリ]
株式会社スタジオジブリ
徳間書店グループ傘下のアニメ制作部門。
主に劇場上映の長編アニメを作成する。
「風の谷のナウシカ」の大ヒットの後に設立され、一作目が「天空の城ラピュタ」である。

↓[バカ共]
クライマックスシーンで、海賊の首領・ドーラがムスカらに対して言ったセリフ。
私がそう思っている訳ではないので、あしからず…

↓[自爆スイッチ]
そんなモン付けるかい!と誰も思うだろう。
だが、タイムボカン・シリーズの三悪人のほとんどの搭乗メカには標準装備だった。
もちろん現実でもあり得ない訳ではない。
自爆スイッチを取り付ける意義は、機密情報の敵への漏洩を防ぐなどが考えられる。

↓[長いラピュタの歴史]
ラピュタの物語は具体的な時代背景が設定されていないので、架空の時代と言われてしまえばそれまでだが、飛行船が飛ぶ時代と考えれはそれほど古い時代とは思えない。
我々の次元に当てはめるのなら、古く見積もっても西暦1800年頃と思っていいだろう。
一方、ソドムとゴモラの話が出てきたから、ラピュタ王国の歴史は相当古い。
ソドムとゴモラとは旧約聖書のアブラハムの生涯に登場するエピソードだ。
旧約聖書には具体的な年代が書かれていないが、アブラハムの曾孫にあたるヨセフがエジプトに移り住んだことから、少なくとも出エジプトがあったとされる紀元前1500年より500年は前と考えれば、ラピュタの歴史は3800年以上ということになる。
一代30年で計算すると、シータは少なくとも126代目ということになる。
なお、出エジプトの年代にも具体的な記述が無いが、ソロモン王の大神殿建設から逆算して、そのくらいだろうということです。
私は旧約聖書の記述について、ダビデ王以前の話は基本的にフィクションだと思っているので、正確ではないですので…

↓[カツゼツの悪い人]
肝心のシータのカツゼツは劇中、終始ハッキリしていた。
最も間違い易そうなパズーの名前も、聞き間違えそうになるシーンは無かった。
もちろん、それはシータ役の声優がプロの声優だったから当然であるが、ジブリ作品ではプロの声優以外の著名人が、声優として多数参加している。
中には結構カツゼツがアヤシイ人も…
もしシータの声優が、カツゼツの悪い著名人だったら、違った意味でヒヤヒヤしながら映画のスリルを楽しめたかも…

↓[大風が吹けば桶屋が喜ぶ]
大風が吹くと塵や埃がまう→塵や埃が目に入り失明する人が出る→失明した人は三味線を習いだす→三味線を作るには猫の皮がいる→猫の皮を採ると猫が減る→猫が減ると鼠が増える→増えた鼠が桶をかじって桶をダメにする→新しい桶が売れて桶屋が儲かる…
というように関係性が間接的に連鎖していく事の喩え。

↓[誤作動を起こす可能性はゼロにはできない]
だから機械であっても100%信用などありえない。
以前、スピード違反のネズミ捕りに引っ掛かった時、一応「そんなにスピード出てました?」としらばっくれてみたら、お巡りさんに「えぇ機械は100%正確ですから…」と得意げに言われた。
その時も同じ事を言ってやりたかったが、モメゴトは嫌だったのでやめた。
まぁスピード違反してたのは事実だったし…

↓[前言取り消しの言葉]
クライマックスシーンでは、パズーとシータが「バルス」を言ってから間髪入れずに飛行石が反応を始めていた。
あれでは仮に「前言取り消しの言葉」が有ったとしても、間に合うかどうか解らない。
せめて考え直す猶予が15分くらいは必要だと思うが、それではクライマックスシーンが異常に間延びしてしまうというジレンマに苦しむ。



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