本当に不可解なおとぎ話

□お菓子の家
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シンデレラのガラスの靴を始め、おとぎ話の世界では本来の素材とは違う素材を使ったアイテムがたくさん登場する。

まるっきりナリ得ないモノを使っているという訳ではなく、それなりになんとなくナリそうなモノを使っているが、そこはまぁメルヘンの世界…
あくまで、見た目が「そうなりそう」という事で選ばれた素材なので、機能性で見ればツッコミ所がいくらか有るのも事実である。


グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」の魔女の住むお菓子の家は、誰もが子供の頃に「一度は住んでみたい!」と思った夢の住宅ではないだろうか?

なにしろ好きな時に好きなだけ好きなお菓子がつまめる訳だ。
もちろん私もそう思った口だが、おそらくそう思って住んでみれば「二度と住みたくない」という感想に変わるのではないかと思うのだ。

ナゼか?
そのお菓子の家は「家」と言っている以上、お菓子であるのと同時に雨風しのいで寝食ともにする住宅なのだ。
食ったら食いっぱなしという訳にもいかない。
食った箇所のお菓子は補充しなければならない!


この童話の悪役として登場した魔女は、魔法使いという訳ではない。

仮にそうだったとしても、「魔法でナンとでもなる」ではつまらないから、やはりここは魔女自身が手作業でメンテナンスを行っていたと考えよう。


兄妹の証言から、お菓子の家は屋根瓦が板チョコ、壁の煉瓦がカステラ、ドアがクッキー、窓ガラスは砂糖菓子でできていたらしい。

例えば壁の煉瓦のカステラを食った場合…
食った箇所だけを補充していたら、食い易い箇所のカステラだけの回転率が高くなり、食い難い箇所のカステラほど滞留してしまう事になる。

在庫管理の基本は「先入れ先出し」
つまり古い方から先に食って行くということが理想である。

また、このお菓子は単純に保管してある在庫ではなく、建材として仕様している以上、箇所によって負荷に差があり、負荷の差で劣化にも差がでてくる。
負荷がより掛かっている箇所も有るということを想定しながら、何処を優先的に食って行くのかを考慮したければならない。

この場合、壁の最下部からという事になるだろう。

最下部のカステラを取り出すには、ソレより上の全てのカステラを退かさなければならない。

しかも煉瓦として使用しているという事は、煉瓦積みの基本の組積造りで積まれていたと考えられる。

最下部の一つのカステラが支えている上のカステラは段が一段上がる毎に、一個ずつ増えて行く。


仮にカステラの壁が20段だったとした場合、1個のカステラを食べるために退かさなければならないカステラは209個。


さらに、退かしたカステラは積み直さなければならない。

ランダムに積み直していたら、古いカステラと新しいカステラがゴチャ混ぜになってしまう。
退かす段階で、古いモノと新しいモノをキッチリ仕分けして置かなければならない。


小腹が空いた時に、気軽につまむハズのオヤツなのにカステラ一つ食うにも、家のほぼ半分を解体するという丸一日仕事である。


最も厄介なのは、クッキーのドアである。

住宅の素材におけるドアの占める割合は、屋根や壁と比べればはるかに小さな面積である。
しかし、屋根の板チョコは瓦、壁のカステラは煉瓦と細かい無数のパーツの集合体であり、一つ一つのパーツで見ると、頑張れば食べきりサイズと言えなくもない。

だが、ドアは一枚板である。
一般的なドアのサイズ、縦2m横75cmが一枚のクッキーによって構成されている。

自分の身長を上回る大きさのクッキー…
体育会系の高校男子10人掛かりでもかなりキビシイ量なのに、一人暮らしの高齢者の女性が食いきれるとはとても思えない。

無論、無理して食べきる必要はない。
が、途中で食べるのを止めたとしても、ドアクッキーが一枚板である以上、修復するには結局一枚板のドアクッキーのスペアを用意する必要が生じてしまう。
つまり、一旦食い始めたら、完食しようがしまいが1.5uのドアクッキーを新たに焼かなければならないのである。

食い難い箇所は、無理してお菓子にする必要は無いと思うのだが、兄妹の証言では「家の全てがお菓子」と言っている以上、家の柱や基礎に至るまで、お菓子で作られていたとしか考えられない。

さらに食べ物が傷みやすい時期には、回転率を上げなければ、どんどん腐っていき、無駄に捨てる分が増えてしまう。

真夏のうなるような炎天下に、パッサパサの大量のカステラとクッキー…
う〜ん想像しただけで、食欲が激減してしまいそうだ…


物語では、お菓子を勝手に食べていたヘンゼルとグレーテルに、魔女は怒る事も無く家に招き入れた。

もちろん二人を騙して食べてしまう事を咄嗟に思いついた訳だが、毎日苦労して計画的に計算してお菓子を食べ、アリなどの襲撃からも守ってきた己の城…
何も経緯を知らないとはいえ無頓着に食いあさっていたガキンチョを目の当たりにして、さぞハラワタ煮えくり返った事であろう。

ソレでも二人を怒鳴りつける事なく、冷静な対応をした魔女はさすがプロの悪役である。


【注釈】
↓[手作業]
この場合の手作業とは、魔法以外の方法と解釈して頂きたい。
ようするに魔法以外の方法なら、工具を使おうが重機を使おうが、ソレは魔女の勝手である。

↓[組積造り]
偶数段と奇数段を交互に半分ずつ組み合わせる工法。
上層部の重量を、下層部に行くに従って支える煉瓦が増えて行く事で、より安定する工法である。

↓[クッキードア]
クッキードアが有るという事は、クッキードアを焼いた釜戸がどこかに有るハズである。
まぁ縦2m横75cmのクッキーが焼ける釜戸なら有っても不思議ではないが…

↓[アリ]
昆虫鋼膜翅目アリ科でハチに近い分類。
ちなみに、普通の住宅の敵であるシロアリは、網翅目に分類され、カマキリやゴキブリに近い分類である。

↓[無頓着]
こう書くより「頓着無しに…」と書きたかった…
ただ、この日本語が正しいかどうか解らないのでやめた。
こういう場合、私はよく「トンジャカナイ」という言葉を使うが、これは多分、私の生まれた静岡県遠州地方の方言だと思う。



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