本当に不可解なおとぎ話

□赤ずきんちゃんの狼
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日本の童話の悪役と言えば鬼が定番だが、ヨーロッパでは狼が定番である。

今回は「赤ずきんちゃん」に登場する悪役の狼の不可解な行動を検証してみたい。

赤ずきんちゃん「婆さんの手はどうしてそんなに大きいの?」
…中略…
狼「それはオマエを食べる為だよ〜!!」

お馴染みのシーンである。

いまいちストーリーを覚えていない方の為に説明すると、主人公の赤ずきんちゃんと悪役の狼は、この時が初見ではない。

赤ずきんちゃんがお婆さんの家へと森の小道を歩いている途中に両者は出会い、狼は「お婆さんへお土産に花を摘んで行ってあげたら良い」と助言。
赤ずきんちゃんがお花畑で花を摘んでいる間にお婆さんの家へ先回りし、お婆さんを食べた後で赤ずきんちゃんを待ち伏せしたのだ。

なぜ、狼は出会ったその場でガブリといってしまわなかったのか?

ハッキリ言って赤ずきんちゃんは、お世辞にも賢いとは言えない。
「食ってくれ」と言わんばかりのスキだらけだ。
襲おうと思えば、出会ったその場で襲えたバス…

狼はこの戦略を「赤ずきんちゃんとお婆さんの二人共食べるため」と解説しているが、二人共食べるためと言うなら、順番はどちらが先でも良かったんではないだろうか?

この狼は、好きな食べ物は後にとっておくタイプなんだろうか?
新鮮な肉(赤ずきんちゃん)を後でゆっくり食べるつもりでいたのか?

それはあり得ない。
ラストシーンを思い出して頂きたい。
猟師によって狼のお腹から救出された赤ずきんちゃんとお婆さんは、全くの無傷で救出されている。

つまり狼は、二人共丸呑みにしたのである。

全く味わっていない!
しかも服ごと…
狼の舌には、おそらく服の味しかしておらず、それでは服を着た仏像を丸呑みにしても、多分同じ味がしたのではないだろうか?

まぁ無理もないかもしれない。
本来オオカミは群れで活動する動物である。
たまに単独行動するオオカミもいるが、それは群れから追い出されたか、はぐれたかで、自分の意思で単独行動するオオカミはほとんどいない。

オオカミの群れの食事は、リーダーが最も美味い内臓を食べ、後の部位はその他のメンバーの早い者勝ちである。

ゆっくり味わって食べている余裕など無く、たいていのオオカミはむさぼるように食っている。

ネコ科の動物の場合、獲物の首に食らい付き、窒息死させてからゆっくりと食べるが、ソレはネコ科の動物の多くが単独行動だからである。
イヌ科のオオカミが、獲物を倒したら生きたまま食べるのは、絶命するのを待っていたら、たちまち自分の分け前が無くなってしまうからである。

この狼は、単独で活動するいわゆる「はぐれ狼」のようだ。
当初の計画では、赤ずきんちゃんの方を後でゆっくりと味わって食らうつもりだったんだろうが、いざ新鮮な獲物を前にした時、思わず本能的に丸呑みにしてしまったんだろうか?


しかし、最初から丸呑みにするつもりだったのなら話は変わってくる。

まぁ赤ずきんちゃんの体重は不明であるが、歳の頃から想像すると、重かったとしても30kgくらいであったと思われる。

妊婦に例えれば、出産間近の平均的体重の胎児10人分である。

さすがに、この重さを腹に抱えてはお婆さんの家まで辿り着くのは困難だ。

じっと消化されるのを待ちたいが、赤ずきんちゃんが日が暮れても戻らないと、当然、大人達が探しに森に入って来る。

そうなるとお婆さんの方は食べる事が難しくなる。


…書き始めた頃は不可解に思えた狼の行動も、意外にも理にかなった戦略であったのかもしれない…

ただ1日に人間2人は食い過ぎだ。

お婆さんと赤ずきんちゃんの2人を食べたのは、いずれも日中のうち…
お婆さんの体重を40kgと仮定した場合、合計70kgが胃袋の中に治まっていた事になる。

70kgを食った時点では、さすがに食い過ぎで動けなくなったようだが、40kgが胃に治まった段階では、満腹感を得られなかった…
つまり、満腹中枢がはたらかなかったという訳だ!

おそらくこの狼の満腹中枢がはたらくのは、60kg位ではないだろうか?

1日に大人1人ずつを食べなければない事になる。

野生動物は毎日、満足に食事にありつける事などあり得ないが、2日で大人1人を食べたとしても、1年間で182人…

オオカミは一般的に2年位で成熟する。

この狼の年齢を、落ち着き様から、5歳位と仮定すると、これまでに910人を食らってきた事になる。

5年間で、1000人近い人間が行方不明になるような、金田一耕助もビックリ仰天の土地で、森の中でノンキに一人暮らしをしているとは相当、肝の据わったお婆さんである。


また、そんな土地で小さな女の子を、一人で森の中にお使いに行かせた母親も問題である。

まぁ、中世のヨーロッパではそれが普通なのかなぁ?

【注釈】
↓[お花畑]
たまたま子供の頃に読んだ絵本がそう書いていただけかもしれないが、野に咲く花ならともかく畑に咲いている花を、ダマされたとはいえ勝手に摘むのはマズイ!
「お花畑」というからには、その花が農作物として出荷目的で栽培されていたという事なのだ。
狼は先回りをしに行っていた訳だから、しばらくの間赤ずきんちゃんが一人で摘んでいた事になる。
しかも、赤ずきんちゃんが狼から「お花畑」と聞いている以上、この時点でそこが生産者の生産現場である事を認識できていたハズだ。
もしその間に生産者が現れたら、収穫泥棒としてとっ捕まっていた可能性がある。
そうなると赤ずきんちゃんはお婆さんのお見舞いどころではなく、狼の計画も途中で頓挫していた。

↓[オオカミ]
哺乳鋼食肉目イヌ科。
最大種は北アメリカに生息するアラスカオオカミで、大きいモノで100kg以上の個体が確認されたが、それにしたって人間を丸呑みにするのは無理である。
なお、しつこいようだがカタカナ表記は生物学的な話をする場合の通例と思って下さい。

↓[ネコ科の動物]
まぁネコ科の動物といえど、そうそうゆっくりとは食べていられない事情も有る。
例えばチーターやヒョウ等の中型の猛獣の場合は、あまりゆっくり食べいるとハイエナなどに横取りされるケースも有るからだ。
ハイエナは単独では同じ肉食獣同士のケンカならめっぽう強く、ヒョウ等にとって脅威の存在である。

↓[ネコ科…単独行動]
ネコ科で群れで狩りをする動物はライオンだけである。
ネコ科とイヌ科は太古の昔、同じ「ミアキス」というイタチのような動物から分裂し、ネコ科はジャングルで、イヌ科はサバンナで進化した。
サバンナでは群れで狩りをする方が都合が良く、ジャングルの場合は単独の方が狩りがし易い。

↓[満腹中枢]
脳の視床下部が血糖値などに反応して、食欲をコントロールする。
まだお婆さんが消化されていない状態ではたらくかどうかは解らないが、明らかに消化が遅いのも問題だし、摂食中枢の異常の可能性も有る。
早く病院に行くべきだった…

↓[金田一耕助]
推理作家、故・横溝正史の小説に登場する名探偵。
「八つ墓村」「犬神家の一族」など、偏狭の里の怪事件を扱った作品が有名。



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